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第16章 第19話side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 「柊吾のほっぺ…あったかい」 ふふっと微笑んで、俺の頬に自分の頬を寄せてくる。 柔らかくて吸い付くような肌の感触。 きっと俺が返答に困る事を聞いたせいだ。 環生(たまき)なりに気まずくなった流れを変えようとしたんだろう。 環生の優しさに便乗する事にした俺は、高速で頬ずりしたり、耳の裏に吸いついたり。 「柊吾、くすぐったいよ」 腕の中で暴れる環生の楽しそうな笑い声。 あぁ、そうだ。 俺が見たいのは、環生の幸せそうなふにゃふにゃ笑顔だ。 困り顔や泣き顔じゃない。 謝りたくて環生をじっと見つめると、察した環生は軽くうなずいて瞳を閉じた。 どうやらキスで許してもらえるらしい。 丁寧に抱きしめ直して、ゆっくり唇を重ねた。 いつものキスをしたら、その気になってセックスする流れになって、結局うやむやになる。 それだけは避けようと、唇を密着させるだけ。 環生は身動き一つせずにそれを受け入れた。 あまりに反応がなくて環生の気持ちがわからない。 様子をうかがいながら、もう一度。 15回めのキスでようやく俺を見た環生は優しい瞳をしていた。 「…やっぱり一緒に溺れるのやめた。これからもあったかい柊吾に抱きしめて欲しい。だからもし恭一(きょういち)さんと柊吾が溺れる事があったら、俺が同時に2人とも助けるよ」 任せて…と、環生からの口づけ。 小柄の環生が俺たちを同時に助けるなんて無理だろう。 自分でもわかっていながら、俺のために紡いだ言葉。 何より環生の気持ちが嬉しかった。 「…困らせて悪かった。もしそんな事になったら俺がアイツを助けるから、環生は陸で待ってろ」 な?…と、丸っこい後頭部を撫でると、素直にうなずいた。 頼りにしてるね…と、言われて浮かれ気分になる。 「もし、環生が溺れたら俺が助けるからな。環生も俺も助かる方法を探す」 「うん…ありがとう。お互いをひとりぼっちにしないって約束ね」 きっと俺たちを残して出ていった母親や、ドライブ中の事故で亡くした恋人の事を思ったんだろう。 どうやら環生はこれ以上俺に悲しい思いをさせないつもりらしい。 「環生…」 「俺…その気になったら1人でも生きていけると思う。でも、できれば大好きな人たちに囲まれて生きていきたい」 いいよね…と、握った手に頬ずりをする。 環生の中で、俺が環生の側にいる事は確定らしい。 環生の言葉で、じわじわと体中に広がっていく喜び。 それが環生の望みなら、何があっても環生を囲む人間の1人でありたいと思う。 「俺も環生を1人にしない。今までみたいに側にいられなくても」 「ありがとう、柊吾。嬉しい」 俺、無敵だね…と、無邪気に微笑む環生がたまらなく可愛くて、思わず抱きしめた。 環生がいるなら俺も無敵だ。 もっと頼られる男になってみせる。 そう心に決めた。

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