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終わりへと進む夜2
会いたくないと言ったのに、ソイツはやって来た。
「オレはもう関係ない」
オレは家に入れるも嫌だったからドアの前でそう言った。
「そう言うな。家に入れてくれよ。仲間じゃないか」
戦友は言った。
今は軍のエラいさんだ。
戦友ならいいが、軍のエラいさんは嫌いだ。
それに今の恋人は昔の敵国人だから、戦友でもこの家にはいて欲しくない。
恋人が少し語ってくれた過去。
初めて愛した男は戦争で死んだらしい。
オレの家族も戦争で殺された。
戦争はもうこの家に入って来なくてもいい。
「そういうな。【奴】の話でもか。【白い悪魔】の話でもか」
オレは固まった。
「お前の家族を殺した奴だよな」
戦友の言葉に家のドアを開けた。
「話は聞く。でも早く出ていけ。恋人が帰ってくる前に」
オレは言った。
「恋人だと?お前がか」
戦友は驚く。
軍をやめて数年は、酷い暮らしをしていたのを知っているからだ。
この前コイツも会った時は、自暴自棄で。
アルコールに溺れて。
廃人になっていた。
猫を拾って、落ち着いた。
そして、今は恋人のおかげで夜も怖くない。
「幸せなんだよ、聞くのは話だけだ」
オレは言った。
【白い悪魔】ソイツはそう言われていた。
雪に紛れてやってきて、一人で皆殺しにしていく。
気配なく近づくか、遥か遠く、有り得ないほど遠くの場所から撃つか。
ライフルとマシンガンで大量に殺した。
たった一人で。
誰もが最初はソイツが一人だとは思わなかった。
少なくとも小隊に襲われたのだと思った。
でも、複数の足跡はどこもなく。
生き残った男の証言で、その男が一人だったことがわかった。
白いボディスーツを着た男を、生き残った男は【悪魔】と、呼び亡くなった。
それが呼び名になった。
植民地での領土争いは熾烈を極めた。
極めて貴重な地下資源を争い、戦争は激化していった。
多くの若者が母国から植民地に送られてきて、植民地を焼きながら殺し合った。
迷惑したのは植民地の住人だった。
オレ達家族は国籍こそ母国にあったが、植民地に何代も前から住んでいて、母国よりは植民地そのものに愛着をもっていた。
農園を営んでいた父が死んだ後はオレと母親で切り盛りしていた。
戦争が始まるまでは幸せだった。
母親と妹と笑いながら暮らしていた。
戦争が始まれば、オレは兵士にさせられた。
現地に詳しい、同国人を軍が必要としたからだ。 母親と妹の身の安全を条件にされて、引き受けた。
軍はいずれは母国に避難させると 、同国人の一般人を集めしばらく保護施設で保護し、しかるべき時が来たら軍の一団の中に保護し 、港から母国へおくる、とオレに約束した。
オレはホッとした。
農園はもう駄目だろう。
でも生きていればなんとかなる。
そう思ったから。
オレは軍の特殊部隊に選別されて、最前線での任務が決まっていた。
母親と妹が無事ならそれで良かった。
前線でもどこでも行ってやると思っていた。
母親と妹の死を知ったのは、前線で任務をこなすようになってしばらくたった頃だった。
毎晩悪夢にうなされるようになっていた。
任務は悪夢のようなものだった。
敵地に忍び寄りひっそり殺す。
偵察が任務だった。
時に攫い、尋問と言う名の拷問を加え、情報を引き出し殺す。
協定違反の汚れ仕事がオレの任務には多かった。
感情のスイッチを切り、たたただこなしていった。
殺した奴らの顔など覚えてもいないのに、夜の夢の中ではそいつらに責められた。
顔を覚えていなくても、人を刺す感触、骨を砕く感覚は手にのこっていた。
それは今でもだ。
殺す毎日の中で、妹と母親の死は伝えられた。
母国へ送り返す人々と、それを護送する一団が襲われたのだ。
【白い悪魔】によって。
【白い悪魔】は民間人も的確に殺していた。軍人も含めて、 150人近い人々が殺されていた。
たった一人の男に。
そこからはオレは戦争にのめり込んだ。
それまでは仕方なく殺していた。
そこからは楽しんで殺し始めた。
復讐。
血は血で贖え。
罪もない民間人を殺すようなヤツらにはその血で代償を支払ってもらう。
もう、何人殺したのか覚えていない。
殺して殺して殺して殺して。
特に好きなのがスナイパーを殺すことだった。
遠くから撃ち殺すだけのスナイパー達に忍び寄り 、虐殺した。
殺す度、【白い悪魔】だったらいいと思った。 【白い悪魔】について質問し、スナイパー達を切り刻みながら殺した。
鼻を削ぎ、耳を削ぎ、指を切り落とし殺していった。
殺したスナイパーには背中に名前を刻んだ。
妹の名前だった。
ただ、【白い悪魔】とだけはなかなか戦場で出会うことはできなかった。
一度だけ出逢った。
すごいヤツだった。
その建物にいることはわかっていた。
しかし、有り得ない距離から狙撃された。
隣で戦友の頭が吹き飛んだ。
オレが肩だけで済んだのは、勘でしかない。
ただ、思わず伏せたのだ。
肩を撃ち抜かれて狙われていたことを知った。
そのまま、物影に飛び込みながら 、相手が誰なのかを知り、興奮した。
双眼鏡で確認した一瞬、双眼鏡が撃たれた。
レンズの反射を撃ち抜いたのだ。
ほんの僅かな確度の差で 、レンズと、オレの目の横の皮膚をえぐり、弾はとんでいった。
化け物だ。
ゾッとした。
でもオレの目は一瞬だけ、ソイツの姿を捉えていた。
顎の線と、肩のライン。
姿と言える程のものではないが。
さあ、どうする。
あそこにいるあの悪魔をどうやって殺す?
オレが必死で考えていた時、爆撃機の爆撃が始まり、悪魔のいた建物が爆破された。
オレは、建物へと走った。
あの悪魔を殺さないといけないのはオレだったからだ。
建物の瓦礫の中には人の死体は見当たらず、その後に行われた撤去からも、死体は見つからなかったと聞いた。
そして、戦争が終わった。
オレは復讐を果たせないまま、人を殺した記憶に責められながら、生きて行くことになったのだった。
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