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終わりへと進む夜3

 「取引?」   オレは鼻で笑った。  オレに何をさせようと言うのだ。  オレの家族をまもってさえくれなかった国が。  戦争後、オレは国を捨てた。  もう 戦争はごめんだ。  今やっと忘れられそうなのに。   家族の記憶も戦争の記憶も。  全てをあの男の肌とあの男の中の感覚に書き換えるような毎日が 、優しい指の感触を味わうような毎日が気に入っている。  夕食を作り、 恋人と笑いながら食べることから始まる夕方。  甘く恋人を攻める夜。  キスで目覚める朝。  もう 、何もいらない。  「話は最後まで聞け。【白い悪魔】を殺すのがお前の願いだったな?」  戦友は言った。  コーヒーも出さない。  さっさと終わらせたい。  「これは極めて高度な政治的な駆け引きの結果なんだ。お前が引き受けなければまた戦争が始まる。【白い悪魔】を殺して欲しい。もうどちらの国も、戦争は避けたい。だが、収まりがつかないのだよ。特に上の人間達は。だから、【白い悪魔】とお前を戦わせることを戦争の代わりにする。どちらの陣営がそれぞれ最高の殺人兵器同士を戦わせるんだ」  馬鹿みたいな話。   誰がそんなことするか。  誰がこれ以上、操り人形なってやるか。  いや、オレがした酷いことの数々はオレの意志だった。   「私達兵士は弾丸だ。意志なんてない」   恋人はそう言ったが、オレは違う。    復讐のために殺し続けた。  でも、もういい。  「そんなふざけた話はどうでもいい」   もう帰れ、と言おうとした。  今晩恋人は来るだろうか。  今日は激しく抱きたい。  何も考えないですむ位に。  「これ一度だ。お前ならヤツを殺せる。お前だってそれを望んでただろ?」  戦友言って、書類をテーブルに並べた。  オレはうんざりした。  恋人が抱きたかった。  とにかくあの中に入って、ドロドロに溶け合いたかった。  持って帰れと書類を突き返そうとして、一枚の写真 に目が止まった。  恋人の写真だった。  軍服を着た。  「ああ、それが俺達が恐れていた【白い悪魔】の正体だ。意外だろ、そんな優男だったんだ」  戦友の言葉が、遠くで聞こえた。  全ての合点がいった。  初めて会った日、なぜあの男に目がいった。  視線をうばわれた?  なぜ追いかけなければならないと思った?  【白い悪魔】の姿。  双眼鏡の奥に見た、顎のライン、耳の形。  あれは恋人のものだったからだ。  逃がすな、と本能が言っていた。  殺せ、敵だと本能が叫んでいた。  だからオレは男を追った。  だけどオレは勘違いした。  男があまりに綺麗で。  雨に濡れていて、濡れた花みたいだったから。  オレは、警告のシグナルを一目惚れだと勘違いしたんだ。  で、馬鹿げたことに、その後本当に恋に落ちた。  オレの家族を無慈悲に殺した男と。  オレはその場で吐いた。  「大丈夫か」  戦友が慌てた。    こんなこんなふざけた話があるか。  オレは頭を抱えて獣のように吠えた。    オレの恋人は、オレの家族を殺してた。    母親の死体はマシンガンで顔半分を吹き飛ばされていた。  優しい人で、料理上手で、苦労ばかりしてた。  いつか楽させてやりたかった。  妹はなかなか死ねず、かなりの距離を這って力尽きていたと言う。  冗談と歌か好きで、明るい子だった。まだハイスクールも卒業してなかった。、  苦しみ抜いて、多分オレの名前をよびながら 、流す血の跡を残しながら助かろうと這って逃げたのだ。  その後、頭をうちぬかれ死んでいる。  男は多くの民間人を含む150人を一夜で殺した。   オレの恋人は、オレの家族を殺しました。    オレは家族を殺した男と唇を重ね、その中に入り、髪を撫で。  「愛している」  と囁いていました。  オレは慟哭した。    戦友が何を言ったか聞こえなかった。    ただただ、この感情をどうすればいいのかわからなかった。

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