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眠れぬ夜の過ごし方1

 あの人はどこ。   あの人はどこ。  あちきはあの人と行くと決めたのに。  愛しい方。  愛しい方。  一緒に死んでくれると言ってくれたのに。  どこ。   あの人はどこ?  まさか、奥方様のところ?    そんな訳がない。  二人でいこうとおっしゃった。  あの人はどこ?  あの人 は。   オレは女の子とキスしていた。   え、何で。  オレはゲイだ。  小さな華奢な女の子で、16、17位?  着物を着て、日本髪をゆっていた。  唇が離れ、女の子はオレの胸にしなだれかかる。  「姐さん」  そう、その女の子に呼ばれた。  顔が上気している。  「可愛いねぇ、口吸いくらいでこんなにになってさ  オレが女の子を撫でながささやく。  オレは気づく。  オレは、誰かの中にいるのだ。  おそらく、女の人だ。    「本当に可愛い」  女の人は笑って、女の子の袂に手を入れて、薄い胸を撫でさすり始めた。  何となく、オレはこの女の人と自分の手の早さが重なる。  いや、オレは女の子とだけはしないけど。  女の人も着物を着ている。  まるで時代劇のセットみたいだ。   「姐さん、ダメ、ああ、そこは堪忍して」  女の子が悶える。  僕の手、いや女の人の手は裾を割っ 女の子のそこへのびていたからだ。  割れ目を見つけてそこに指を女の人は挿れてかき混ぜ始めた。  「あっ・・・姐さん・姐さんああっ・・・」  女の子の悶える様子が意外と可愛くて、オレはもしかしたら、女でもいけるのかもしれないと思ってしまった。   ゲイであることで悩んでいた頃もあったのに。  多分、この身体の主に引っ張られているだけだと思うけど。  「おい!!」  怒鳴り声がして、ビックリした女の子が女の腕から逃げる。  女の目で、オレはその怒鳴り声の主を見た。  時代劇?  頭頂部を剃り上げ、髷をゆった着物の男がにがりきった表情で立っていた。  違う。  コレは昔なんだ。  遠い昔。   「   、お前いい加減にしろよ。あの子は水揚げまで客をとらせないんだからな。いくらお前が旦那に可愛がられていても、あまり悪さがすぎると折檻されるぞ」  会話から察すると、ここは遊郭か。  女は遊女らしい。  個室を与えられているということは、そこそこ高級遊女なのだろう。  「いいじゃないか。口漱ぎみたいなもんさ。いやらしい客の相手ばかりしてるんだ。何にも知らない女の子を可愛がる位いいじゃないか、他の姐さん達だってあれくらいはしているさ」  女が言う。  「他の姐さん達とはお前は訳が違うだろ」  男は頭を抱えて言う。  「そうだね、あちきはちょっとばかり、他の遊女達とは違う、なんといっても、あちきは男だからね」   女は楽しそうに笑った。    何、  驚いたのはオレだった。  「それは公然とは言うなと旦那に言われているだろ。陰間茶屋にやられるぞ。」  男はため息をつく。  陰間、男娼か。  そう、たしか男娼は男娼専用の店があったはず。  「陰間なんぞとあちきを一緒にしないで欲しいね。女が好きな男でも、あちきに狂う。女以上に女で、男以上に男なのがあちきだからね、天下一の遊女があちきだよ」  女、いや、男が高慢に言ってのける。  こっそり店が、男を女として身体を売らせているのか。    倒錯的な客相手に、陰間とは違う付加価値があるのだろう。  オレは混乱するが 、とりあえず本人の言うように遊女ということで、女にしておこう。  「お前は特殊なんだから、この前みたいに客を追い払うような真似は止めろよ、男であることを訴え出られたらどうなるかわからん」  男が心配そうに言う。  この男はこの遊郭の従業員か。  遊郭は見世の者と遊女の距離には相当気を使っていたという。恋愛は御法度だったらしい。  の割にはこの二人、随分親しい。  「幼なじみを心配してくれるのはありがたいさ、でも、あちきは遊女さ。でも、だからこそ張ってみせなきゃ、ならないのさ」  張り。  遊女達は時に身分や権威におもねることを拒否した。  そういった遊女たちの心意気を「張り」といい、そういった遊女は大変人気があった。  「でも心配してくれてありがとうよ」  女は物憂げにキセルをふかした。  どこか女は投げやりだった。      

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