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探した夜の過ごし方2

 教授の部屋の扉をノックする。  教授が咳払いして言う。  「どうぞ」  部屋に入ってもお互い気まずくて、目を合わさない。  自分の学生のオナニーシーンを教授は見てしまった訳だし、  オレなんて、教授相手の妄想してしまっただけでも気まずくのにそれを見られてしまったわけで。  めちゃくちゃ気まずい。  「まぁ、健全な男子ならまぁ、そういうわけで」真っ赤な顔しながら、教授がもぞもぞ言った。  「はぁ」  オレももぞもぞ答えた。  オレは不健全この上もないんですけど。  教授の机の前にある椅子に座る。  でもこの際だから聞いてみようと思った。  「教授、なんで教授は独身なんですか?」    これは学生達の間でも話題にはなっていた。  熊みたいな姿の時でも、教授には人間的な魅力があったし、ヒゲがなくなった今ならもう、無敵なはずだ。  恋人の気配もないし、どこかで処理しているとも思えなかった。  なにしろこの人はとても真面目なのだ。  教授はオレの質問に少し驚いたようだった。  少し考えてから、オレを見つめた。  「聞きたいのか?」  「はい」  オレは即答した。  「昔、ある女の人と約束したんだよ。その人以上に強い人でなければ一緒にならないって」  「はぁ?」  予想の斜め上の答えだった。  ただ、教授の恋話なのはわかった。  「綺麗な人だったんですか?」  オレの胸がうずくのは何でだろう。  「綺麗?綺麗なのか?」    教授は真剣に悩み始めた。  いや、そこは、そうでなくても綺麗だと答えるべきではないかとオレは思う。  「でも強かった。とても強い人だった。背もすごく高くて、オレを背負って山を上り下りできた位で、腕力も村一番だった」  良くわからなくなってくる。  「それ、女の人の話ですよね」  オレは混乱する。  「ああ、10人の子供の母親だった。もっとも彼女の本当の子は3人だったけど」  懐かしそうに教授は言う。  「何歳の頃の話ですか?」  オレは酷く混乱する。  「私が25才、あの人は35才だったかな。政治が混乱している国 でね 、文化の調査中にゲリラに襲われて撃たれそうになったのを彼女が助けてくれた」  教授は笑う。  「銃の腕前は一流だったし、素手でもものすごく強かった」  教授の彼女は何者なんだろう。  オレはもうわけが分からない。  「強い人でね、いや、本当に強かった。子供達を守るために何でもしていた。私に狩りや、サバイバルを教えてくれたのも彼女だ」  教授は懐かしそうに話す。  想像もつかないけれど、教授がその人が好きだったことは分かった。  思い出すだけで笑顔になるから。  「その人が好きだったんですか?なんで別れたんですか」  オレは尋ねた。  教授なら何人子供がいても、外国人だろうが、メスゴリラであろうが、その人を手放すとは思えなかったから。  「彼女が好きだと自覚したのは彼女が死ぬ寸前たった。彼女は私や子供達を助けるために死んだよ。死ぬ前に彼女は願い事を2つ私にした。一つは彼女の子供達を支えて欲しいと。そして、もう一つは自分より弱い人間とは一緒にならないでと」  教授は机の上の写真立てをオレに向けた。  浅黒い肌の若者達が、並んで映っている。  「彼女の子供達だ 。一番下の子がこの前結婚した。日本に連れ帰ることも考えたが、結局、彼女の仲間に頼んで、オレは日本から仕送りや援助をした。彼女の村が再生されることは彼女が一番望んでいたことだったし、そのために出来ることをした 。みんな、素晴らしい大人になった。一人は私と同じ学者になってね、良く見解の相違でやりあっている。私の自慢の子供達だ」  この人の子供の引き取り癖は若い頃からだったのか。  しかし、想像を超えていてオレは面食らう。  「後悔しているよ。彼女を好きだったことに気付かなかったことに。彼女は私を何故だかずっと好きでいてくれたのにね。私は彼女に好きだとさえ言ってあげなかった。彼女は色々、普通の女性とは違っていたから私は面食らってね 、自分の気持ちが分からなかった。だから彼女との約束位は守ろうと思ってね。そうしたら、この年まで独身だったわけだ。あんなに強い人はいなくてね」  教授は微笑んだ。  オレはなんだか、胸が痛んだ。  良く分からないけど。  そしてうらやましかった。  誰が羨ましいのかもわからなかった。  教授なのか、その女の人なのか。  ただ、手当たり次第に楽しんでいるオレにはないんだ。  こんな風に思い返してくれる人も、こんな風に誰かをオレが思うことも。  

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