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決めたその夜の過ごし方2

 「え、何だお前遊女の格好しないの?」   あの人が残念そうに言う。  オレは呆れる。  「オレがそんな格好する必要ないでしょう。中の人にはオレは見えないんだし」  オレはあの人に呆れたように言う。  それにオレのそんな姿を何故みたい。  オレは多少整っている顔立ちなのには自覚があるが、やはり男だし、女装しても単なる女装にしかならない。  この人のあの子なら別だろうけど。  オレは普通の格好だけど、あの人には着物を着せてやる。   オレの田舎では着物は自分で着るものだ。  だからオレは着付けが出来る。  出来上がった。  オレが夢の中で見た服装に近く。  しかし、この人は本当に。  絵になる。   地味な着物が、余計にこの人の華やかさを引き立てていた。  キレの長い目、薄い唇。  元々、和服の似合う顔立ちだし。  なんか、やたらと立ち姿が決まる。  そうか。  所作が綺麗なんだ。  動きの一つ一つが背中に一本芯が入って、腰に重心がのっている。  「剣道か何かしてました?それか踊りか?」  オレは聞く。  「いや、でも古武道の道場にずっと通ってる」  あの人が答えた。  初耳だ。  でもだからか。この立ち方は。  まぁ、セックス以外でこの人とは付き合いなかったし。  だけど、見とれてしまう。  ほら、オレ、筋金入りのゲイだし。  子供時代はなぜ、男の人に自分が見とれてしまうのかに苦悩したものだった。  でも、今は公然とゲイなので、気にせず見とれる。  「やっぱり、外見だけは最高ですよね」  そう、初めて会った時も見とれた。  悪魔のように綺麗な男だった。  男に甘く誘われ、陥落した。  オレはゲイを隠さないとだめな田舎から都会に逃げてきて、でも、まだ隠してて。  そんなオレをこの人は誘惑した。  初めて会ったその日に、公園のベンチで身体を繋がれた。  そんなところで何も知らないオレに、全部教え込んだ。  オレは自慰すらろくにしてない身体だったのに。  今思えばひどい話だ。  「外見だけじゃなく、テクニックもあるぜ、知ってるだろ?」  悪そうにこの人は笑う。  それはよくよく知っている。  「中身は最悪ですけどね」  オレは苦笑いした。  恋は終わっても嫌いにはなれない、か。  

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