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決めたその夜の過ごし方4
「すまない」
教授が赤面しながらオレの身体を離す。
オレも赤い顔で離れる。
「いいえ」
オレもモゴモゴ答える。
性的なもの以外で人に抱きしめられたことなんてなかった。
何だろう、あの、安心感は。
あんな感覚は初めてで。
びっくりした。
顔を赤くして、立ち尽くしているオレ達にあの人 がめんどくさそうにいった。
「もうお前ら付き合っちゃえば?」
オレはさらに顔が赤くなる。
この人は何を!!
あなたがしてきたことを心配して、教授はオレを守ろうとしてくれてるんでしょう。
まあ、一緒になって色々やったことはオレの意志でもあるけれど。
何か言ってやろうと顔をあげたら、教授もさらに真っ赤になっている。
なんで。なんで。
教授の手が伸びてオレの手を握った。
え、なんでこのタイミングで。
なんで。
なんで。
オレが驚いて教授を見ても、教授は顔を赤くしたまま手を離さない。
オレもさらに赤くなる。
パン
あの子が手を叩いた。
「はい、とにかく、儀式をすすめて行きますよ~」
あの子は一人だけ冷静だった。
「お前は嫉妬とかしないの?」
あの人が寂しそうにあの子に聞く。
「何故嫉妬するの僕が?」
あの子が心の底から不思議そうに言った。
少し、あの人が気の毒になった。
儀式が始まるからとあの子に言われるまで、教授はオレの手を握っていた。
大きな手だった。
とても熱くて。
なんだか、ときめいてしまった。
オレ、そうか。
セックス以外で手を繋いだこともないんだ。
そんなことに気付いていた。
なんだかぼうっとしてしまって。
そして、儀式が始まる前にそれを俺達は見つけてしまった。
儀式と言っても大したことはない。
遊女が死んだ神社の木の下で、あの人がオレを刀で貫く真似をして、その後、あの人も死ぬ真似をする。
その後、二つの人形(紙で作った人の形に切り抜いたもの)を本当の人間の命のかわりに燃やす。
それだけだった。
大事なことは、オレの中の遊女が愛する人と死ねたのだと思えることだった。
オレがどれだけ、遊女とこの儀式を「重ねる」ことが出来るのかにかかっているとあの子は言った。
「意味がわからないんだけど」
オレは焦りながら言うと、
「始まれば、わかります」
あの子はそうとしか言わなかった。
しかし、儀式を始めようとその木の下に皆で向かったその時。
そこにあったものに全員が絶句した。
そこにあったのは、喉を突かれ殺された女の死体だった。
「 身体を手に入れたのか」
あの子が呟いた。
オレの中で遊女が悲鳴をあげた。
それは、昔、遊女が死んだ時の姿。
一人、暗闇の中、絶望の中、たった一人で死んでいく。
女の絶望は見えるようで。
その目は空を向いていたが、映っているのは絶望だけだった。
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