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決めたその夜の過ごし方5
「先生は良くないね。あの子のためにはならない」
旦那はおれに酒を注ぎながら言った。
「はぁ」
おれは恐縮しながら杯を受ける。
旦那の部屋でおれは差し向かいで飲んでいた。
夜見世が始まっているから、本来ならばそんな場合ではないのだけれど、旦那に呼ばれたら逆らえない。
「わかっているね、あの人はいない方がいい」
旦那が微笑んだ。
おれは凍りつく。
「いけません。旦那、それは」
おれは思わず言う。
「私に逆らうのかい」
旦那は怒鳴った。
おれは下を向く。
「今までだって、何人だって、お前は私の為に殺してくれたじゃないか」
おれは手を握りしめる。
「でもあれは悪いヤツらで、旦那や店の妓達にも悪いヤツらだから」
おれは、こっそり始末してきた。
欲と色。
そこには暴力などを伴う危険なヤツらもいて。
金や脅しなどではコントロール出来ないヤツらもいて。
おれは、闇に紛れて始末してきた。
「あの子 を殺してでも手に入れようとしたヤツらをお前はどうしたのだった?あれはただ殺すな んてものじゃなかったね?」
声を潜めて旦那は言う。
許せなかっただけだった。
斬って刺して、貫いて。
終わった後の光景は、思い出したくない。
「先生はいつか、あの子を殺す。私にはわかってるんだ。あの子は先生を連れてこの世から消えようとするだろう。その前にお前が止めるんだ」
旦那は囁く。
心中。
アイツのしそうなことだった。
「先生が死ねばアイツは絶望するだろう。そうすればここで生きていける。全ての希望を捨てれば、ここでいきていくことは死ぬことよりはマシになるんだよ」
旦那は微笑む。
「私がそれを一番知っているからね」
旦那は優しくおれを見つめた。
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