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決めたその夜の過ごし方6

  「もし、自由に何でも出来るならお前は何をしたい?」  幼なじみが突然言い出して。  「どうしたんだい?変だよ?」  あちきは笑ったけど、この人は真剣で。  どうしても答えなければいけないようで。   お父さんにこの人の前で抱かれたのは、ある意味先生の前で抱かれるよりもつらかった。  この人があちきを思って悲しむのが分かっているから。  幼なじみで 、同志で、兄さん。    あちきを本当に思ってくれてる人。  あちきが死ねばこの人は泣くだろう。  あちきを想って死んだ男たちより、本当にあちきを想ってくれる人。  あちきと死んでくれる男よりも。  「そうだね、でも先生以外のことじゃないとダメなんだろどうせ」  あちきは笑った。  「当然だろ、おれはアイツが大嫌いだ」  幼なじみはむくれる。  あちきは、いつものように、通りをぼんやり見やりながら少し考えた。  「男になりたいな」  あちきは楽しくなって笑った。  「普通の男にさ。で、異国に行く。自由に色んな物がみたいんだ。で、あちらこちらの娘さんと恋に落ちる」  ふふふ。  考えるだけで楽しい。  あちきを抱いた、長崎の貿易商が言ってた。  身分のない国もあるんだって。  どこにでも好きなところに行ける国があるんだって。  色んな色の髪や瞳の男や女がいるんだって。  「傾城が今度は好色男か、面白いな」   この人も笑った。  「あんたは?」  あちきは聞いてみる。   これは楽しい話題。  話だけなら自由。  ああ、自由ってのはよい。  「おれか」  幼なじみはしばらく考えて、ふわっと笑う。  「義賊かな。弱い者の味方。悪いヤツらを懲らしめて、困った人達を助ける」  あちきは目を丸くした。  それは予想外の答えで。  「あちきはてっきりお侍にでもなりたいかと。剣術好きだろう?」  暇さえあれば木刀を振っているから。  「よせやい。活人剣なんてお題目バカバカしい。上にへいこらすんのがお侍だろ、知ってるくせに」  あちき達は威張り散らした、お武家様の裏の顔から下のモノまで知っている。  それをどこの誰につっこんているのかも。  「異国か」  幼なじみは呟いた。  「連れて行ってやりてぇな。色男」  「嬉しいねぇ、義賊様」  あちき達は笑いあった。  それは最後の夜だった。

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