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決めたその夜の過ごし方7
警察に連れて行かれたのはアイツだったとは言っておく。
被害者は刀のようなモノで喉を貫かれて死んでいるのは私でもわかった。
で、第一発見者の一人が、よくできた模造刀を持った素浪人みたいな格好の男だったら、取りあえず連れて行きたくはなる気持ちは私にもわかる。
まあ、いささか気分を害していたので、アイツを連れて行く抗議には熱がそれほど入らなかったことも告白しておく。
まあ、アイツの弁護士に連絡しておいたのですぐ帰してもらえるだろう。
それより、あの子の様子が気になった。
「身体を手に入れたのか」
死体を見て、あの子は確かに言った。
そこから黙ってしまっている。
アイツが連れていかれるのもボンヤリ見てた。
しばらく儀式も撮影も中止だが、連絡を受けたテレビ局の人だけは喜んでいた。
これは絶対撮ると。
話題になると。
また連れていかれたのがアイツなのも良かったらしい。
片腕を失った後の本は、バカ売れした。
まるでノンフィクションみたいなフィクションで、あの事件の一部を売れるように、本当のように、誰にも迷惑がかからないように、まことしやかに書いていた。
「どうせ、本当のことは隠蔽されるんだ。ならばお金が儲かる作り話にしておけばいい」
彼らしい。
学者としてはイマイチな本だが、作り話としては面白い本だった。
またアイツの本が売れるだろう。
あの子と話をしなければならない。
そして、彼は眠ったままだ。
あの死体を見た瞬間、叫び意識を失った。
寝てるだけだと病院では言われた。
家のベッドに横たえる彼を見つめていた。
髪を撫でる。
手を握った時の赤くなった顔を思い出す。
少しは意識してくれているの、か。
少しだけ。
私は彼の髪に口付けた。
それだけで動悸があがってしまう。
自分が情けない。
これ位は許して欲しい。
目覚めたら、しないから。
私はもう一度だけその素直な髪に口付けた。
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