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悪鬼のような夜の過ごし方3
私は娘に朝ご飯を食べさせる。
少し目を離すと野菜を残す。
サラダのトマトを食べるまで目が離せない。
今日はあの子が起きれないので、私が朝食を作る。
スクランブルエッグとサラダとトーストだけだが。
「料理出来るんですね」
彼が感心してくれる。
「一人暮らしが長いからな。君は料理は?」
私の言葉に彼は肩をすくめる。
作れないらしい。
よし、今夜は私の得意料理を振る舞ってやろう。
あの子や娘にも食べさせやりたいし、何より今日1日あの子は起き上がれないだろう。
「あのね、あのね」
娘は夢中で彼に話し掛けている。
彼が大好きなのだ。
彼と結婚すると言っているが、それだけはあきらめてもらうしかない。
許せ、娘。
父はお前の生きて来たの二倍近い時間を再び愛する人に出会うまで待ったんだから、許してくれ。
彼もニコニコしながら娘の話をきき、折れていた服の襟を直してやる。
元々同じ町出身と、いうこともあり、繋がりは深い。
何より、娘には彼は自分を命がけで助けてくれたヒーローなわけで。
「兄様がね、伝えてって。悪いモノが狙っているのは さんかも知れないって。もう少し、当時の事件について調べるべきだって」
起きてすぐ、最初にあの子の部屋に行ってきたらしい。
起き上がれないあの子からの伝言を伝えた。
事件。
連続殺人事件か。
ということは、まだ誰かが殺されるとあの子は考えているのか。
台所に行き、娘にジュースを、彼にまたコーヒーを入れてやる。
「泣かないで」
娘が彼に言っているのが聞こえた。
泣いて?
私は慌ててリビングに戻る。
彼が泣いていた。
見とれた。
ただ、流れ落ちる涙をそのままに泣く彼はすごく、綺麗で。
ああ、そうだ。
アイツに手酷く扱われた後、アイツがいなくなった後、一人こんな風に泣いていた彼を私は見たことがあって。
その時も胸を打たれた。
「中のお姉さんか泣いているのね」
娘は立ち上がり、椅子に座る彼を抱きしめた。
「そう、オレじゃない。だから教授あんまり見ないで下さい」
彼は私に目をやり言った。
いやだ、見る。
そして誰にも見せたくない。
「悪鬼になってしまったと泣いてるわ、お父様」
娘は彼の中の人の言葉を代弁した。
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