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叶った夜の過ごし方2
フラッシュがまたたく中、テレビカメラの中、車を外に出した。
有名作家のアイツを追いかけてきたマスコミだ。
まあ、アイツではなかったから、すぐに私達への興味は失われたが。
とにかく、二人きりになりたかった。
彼は一言も口を聞かず、私も何も言わなかった。
どう言えばいいのか分からなかった。
車の中ではただ、沈黙だけがあった。
でも、このままホテルに入ってしまうつもりはなかった。
話をしよう。
まず、話を。
私は人気のない場所に車を止めた。
彼がビクリと震えた。
怖がっている。
怖がらせてしまったか。
彼の髪を撫でた。
怖がらないで欲しかった。
頑なに前を向いたままの顔をこちらに向かす。
なんだ、コレは。
なんでこんな表情。
真っ赤な顔が、どうすればいいのかわからないように震える瞳が、私の心を鷲掴みにした。
可愛い。
可愛いすぎる。
そのまま唇を奪って、車の中で彼と身体を繋いでしまいたかったが、耐える。
必死で耐える。
「君が好きだ。ずっとずっと好きだった」
これでは、少年の告白じゃないか。
そう自分でも思ってしまうのだが、他に言い方を考えられなかった。
「君が卒業するまで待つつもりだったし、君にも選択の自由があると思っていた。でも、私にはもう、耐えられない。年も随分上だ。子供も二人いる。でも、君と生きたい。ずっと一緒に」
いや、いきなりこういう風に打ち明けるつもりではなかった。
もう少し上手に話すつもりだった。
これではプロポーズだ。
いや、最終的にはそのつもりだが、いきなり最初からこれでは重い。重すぎる。
私は言ってしまった言葉が真実である分、怖くなってしまった。
彼は何て答えるんだろう。
怖いと言う言葉の意味を何十年ぶりに知る。
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