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叶った夜の過ごし方6
恋人をつくらなかったのは、確かに愛した人との約束もあった。
でも、それよりも何よりも、私は怖かった。
あたたかな彼女の体温が消えて行くのをこの腕の中で感じた。
誰よりも快活な瞳から、光が消えて行くのをこの目は見た。
行かないでくれ。
私を置いていかないでくれ。
そう絶叫したことを忘れてはいない。
私は彼の顔の上に涙を落としていた。
泣いている。
私が?
「愛している」
私は囁く。
それはなんて恐ろしいことなのか。
また奪われるのではないかとの恐怖が私はある。
「教授?」
彼が不思議そうな顔をした。
みっともないところを見せてしまった。
「私を置いていかないでくれ」
私は呻くように言った。
愛している。
だから、もうもう一度は耐えられない。
彼は驚いたように私を見つめ、次の瞬間私の頭を抱えて抱きしめた。
「あなたを置いてはいかない。これでいい?」
優しい声だった。
私はたまらなくなって、また彼の唇を貪り、彼の中に深く自分を打ちつけた。
彼の中で放ちながら思う。
もう、手放せない。
手放してやれない。
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