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叶った夜の過ごし方7

 教授の涙をオレは見たことがなかった。  いつも笑ってて、呑気で、頼りがいがあって、どこか天然で。  良すぎる育ちのズレをオレやあの人にからかわれてて。  あの人に巻き込まれた事件の結果、あの子や娘まで引き取ってしまうし、どうのこうのいいながら、あの人に良いように使われているし、あの人の命も助けてる。  いつも、誰かのために。  いつも、誰かを心配して、走り回って、巻き込まれて。  その結果も全部引き受けて。  強い人だと思ってた。  この人が泣いたりなんかするなんて、思いもしなかった。  ポツン、ポツンと落ちてくる涙。   黒いいつもは笑いを含んだような目が、今は痛むような悲しみをそこに映していた。  すごく胸が痛んだ。  この人は怖がっていた。  本当に怖れていた。  それはオレも同じで。   誰かを本当に好きになることは怖い。  それを怖がって、快楽だけのセックスをゲームみたいに楽しんでた。  でも、オレはフラレただけだ。  でも、この人は失ったのだ。  怖がってきたのだ。  愛する人を失うことを。  オレは教授を抱きしめた。  オレにも出来ることがあるんじゃないかって思った。  オレのビッチな過去は変えられない。  この人の悲しい過去も変えられない。  でも、これから出来ることはあるはずだ。  「あなたを置いていかない、これでいい?」  それをオレは本気で約束した。  それは根拠のない約束だとしても。  オレはそれを守ると決めた。  オレは、この人を守りたいんだ。  いつも誰かを守っているこの人を。  教授に強くだきしめられた。  唇を重ねられ、口の中を貪られる。  あの人は泣きながらオレを何度となく突き上げた、  声が枯れるほど鳴かされ、  意識を飛ばされた。  「もう放してやれない」  そう囁く声が聞こえた。    放さないで。  オレもあなたを放さない。     

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