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仕組まれた夜の過ごし方3

 「姐さん、姐さん、お使いしてまいりました」  使いに出した子が帰ってきた。  「そうかい。沢山だったからね、疲れたろ、お菓子があるよ」  紙に包んだ菓子を渡せば、嬉しそうに笑った。  あちきもこんな年には嬉しかったことを思い出す。  もらったお菓子は幼なじみと分け合って食べたりしたねぇ。  さあ、準備は整った。  今夜は杵屋の大旦那は朝まではいない。  明日大阪に行くから夜には帰る。  それから夜明けにはこの店を抜け出して、あの人の待つ神社へ向かい、あの人と死ぬ。  ああ、胸が早くなる。  ああ、嬉しい。  「何を企んでやがる」  幼なじみの声に驚く。  気付けば部屋の入り口に立っていた。  「怒られるよ、あちきの部屋にきたら」  あちきは言う。  キセルをふかす。  お父さんは、とうとうあちきと幼なじみの間さえ邪推し始めた。    お父さんは狂っている。  人を狂わす人形にあちきを作っておいて、お父さんがそれに狂いはじめた。  最近では、客を差し置きお父さんがあちきに溺れる夜もある。  それでも狂った男の指や舌に乱れてしまうのはあちきだ。  それが辛い。  でも全部終わる。  「ごまかすな」  幼なじみの視線が厳しい。  さすがにごまかせないかねぇ。  この人だけは。  でも、邪魔させるわけにはいかなかった。  「ちょっとおいでよ」  あちきは手招きした。  「なんでぇ」  幼なじみは近付く。  「もっと近く」  あちきは徒っぽく笑う。  「どうしたんでぇ」  手の届くところまで幼なじみが近づいてきた。  「かがんでおくれ」  あちきが言うと、幼なじみは不思議そうにしながらも屈んだ。  顔がすぐ近くに来たとき、その顎を掴んで、唇を重ねた。  口内を舌て探り、見つけた舌を絡め取る。  「    」  何かくぐもった声をあげて、離れようとした幼なじみの頭をか抱えて、さらに舌を絡める。    あちきは目を閉じない。  幼なじみの真っ赤になった顔を、疑問でいっぱいの目を覗きこみながら、淫らに舌を使ってやる。  あちき位になれば、口吸いだけで男を立たせるのは朝飯前だ。  幼なじみの手が引き離そうとする力がなくなっていくのがわかる。  気持ちいいだろ?  あんたにこんな真似はしたくないけど、あちきがすることに気付くのは多分あんただけだから。  ここであちきを押し倒させよう。  あんたは折檻受けることになるかもしれない。  でも、今日のあちきを止めて欲しくないんだ。  あちきは淫らに舌を絡める。  幼なじみの股間に指を伸ばす。  着物の上からでも、ほら、立ち上がっているのがわかるじゃないか。  淫らな指て撫でつける。  口の中に幼なじみの声がこぼれた。  ほら、もうすぐ。  もうすぐ、あんたはあちきに落ちる。  なぜだろうね。  それがとても悲しい。 あちきは唇を離した。  ほら、もう、幼なじみはこんなに雄の顔になった。  あちきは少しドキリとした。  熱くあちきを見る目に。  そして胸が痛んだ。  「てめぇ、何を企んでやがる」  幼なじみが囁く。   あちきの上にのしかかるようにしてあちきの顔を覗きこむ。  あちきはその背に手を伸ばす。   精いっぱい華やかに淫らに笑って。  「抱いて」  幼なじみの喉が鳴った。  幼なじみが呻き声をあげて、あちきの身体に覆いかぶさった  あちきは悲しくなって泣いた。  一番大事なものを自分で踏みにじってしまったように思えて。  

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