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終わりへと進む夜の過ごし方3
あちきは木の下であの人を待っていた。
ああ、あの人が来た。
嬉しい。
来てくれた。
一緒に死んでくれる。
もう疲れた。
全部終わりにして。
一緒に行ける。
なんて嬉しい。
あちきはあの人があちきのそばまでくるのを待った。
駆け寄りたかったけれど、あの人に来て欲しかった。
あちきのところまで。
あの人は来てくれたのだ。
そう実感したくて。
いつものように、透明な闇をその目にたたえて、あの人はあちきのところへ本当に来てくれた。
あの人はもう、あちきのもの。
「男の格好の君も悪くない」
大旦那の着物をきたあちきにあの人は言って少し笑った。
あちきも笑った。
遊女ではない姿で死ねるのが嬉しかった。
あの人は何も言わず、あちきを斬りすてた。
「え?」
あちきはあまりにも突然だったので、よくわからなかった。
ただ、首から血がふきだすのと、あの人があちきに背をむけて去っていくのが見えた。
どうして、どうして。
何故?
どこへ行くの?
一緒 に死んでくれると言ったのに。
どこへ。
どこ、へ。
あの人は振り向きもしなかった。
あちきは死んだ。
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