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終わりへと進む夜の過ごし方8
「お前誰だ」
オレはスマホにかけてきた男に言った。
なぜ 、教授の娘の携帯から、オレのスマホにかけてきている。
声が強張る。
「オレのこと忘れた?3Pしただろ?楽しかったじゃない 」
電話の向こうの声が笑う。
「ふざけるな。3Pした相手なんて何人いると思っているんだ。いちいち覚えているわけないだろ」
って叫んでから、教授の腕の中だったことを思い出す。
教授の身体が固まっている。
「何人もいるんだ」
小さな声で呟いているのが聞こえた。
ええ、すみません、教授。
オレは本当にめちゃくちゃしてました。
「誰か知らないけど、なんで ちゃんの携帯から電話してんきてるんだ。 ちゃんをどうした」
オレは怒鳴った。
娘の名前を聞いて、教授の顔色が変わる。
オレからスマホを取り上げた。
「私の娘をどうした」
低く唸るような声が言った。
教授が本気で怒っているのをオレは初めて見たかもしれない。
眇められた目からは押し殺した怒りが覗いていた。
「 」
オレのスマホで相手の男が何か言った。
「ふざけるな、そんな条件は飲めん」
教授は相手にそう答えた。
でもその声が、怒りだけではなく、何か引っかかるものがあった。
何だ。
あなたがそんなに迷うのはなんだ。
オレは教授からスマホを取り返した。
「オレなんだな、目的は」
あの子が言った。
良くないモノがオレを狙っている、いや、オレの中の人を狙っているかもしれないと。
良くないモノが人に取り憑いて恐ろしいことをしていると。
おそらく、あの女の人の死体もそれと関係あると。
「正解。この女の子とあんたが交換。来たくなければこなくてもいいよ、この女の子にあんたにする予定だったことをする」
男が笑う。
「オレは女はダメなんだけど、色々やりようはある。これだけ可愛い子なら喜んでむしゃぶりついてくる奴らはいくらでもいるだろ」
楽しそうな声で男は言った。
「無理やり突っ込んで、咥えさせて、3Pもいい」
「楽しそうだな、オレが行くよ。全部体験済みだしね」
オレは答えた。
「そう?最後は、ガンガン刀で刺すよ。その経験はさすがにビッチのあんたでもないだろ?」
男の言葉にさすがに凍りついた。
でも、選択することは決まってた
「新しいプレイは試したいね、で、どこへ行けばいい?」
「さすがに、ノリがいいね。そういうとこ気に入ってる。また連絡するから、ちゃんと準備しといててくれる?」
男はクスクス笑いながら言った。
「ちゃんとほぐして、中洗って、連絡を待ってろ 、いい子だから」
男の声はまるで耳元で囁いているかのように聞こえた。
電話が切れた。
かけ直しても、拒否されている。
「クソ!」
オレはスマホを握りしめた。
教授がオレの肩を掴んで、自分の方に向けた。
教授は怒っていた。
オレにも怒っていた。
「どういうつもりだ?まさか行くつもりじゃないだろうな」
肩に指が食い込む。
痛い。
「行きますよ。 が捕まってるんですから」
オレは冷静に言う。
教授の目がぎらつく。
この人の中の猛獣はセックスの時以外でも出てくるのだと知った。
「その男が行ったところで、 を返してくれる保証もないのに」
指が食い込む。骨が鳴るほどにつかまれる。
「行かせるものか」
教授はオレを喰い殺すような目で見つめた。
独占欲と、喪失するかもしれないことへの恐怖。
でも、それは娘へのものでもあった。
この愛する者を失うことを何より恐れる人が怯えていることはオレにはわかっていた。
この人には耐えられない。
オレを失うことも、娘を失うことも。
自分の命と引き換えなら、いくらでも差し出してくれるだろう。
でも、どちらかを選んだりなんか出来ないんだ。
絶対に。
でもね、教授。
「ふざけんな!」
オレは怒鳴った。
教授は驚いた。
まさかオレに怒鳴られるとは思わなかったのだらろう。
「オレは男だ。女の子攫われて、取り返しにいかないワケがないだろ、オレをバカにするな」
オレは教授を睨みつけた。
「あなたやあの人みたいに、腕に覚えがあるわけじゃない。でもね、オレは男だ。ゲイで、男に抱かれるからってお姫様みたいに思われるのはゴメンだ。女の子攫われて、黙っているような真似はゴメンなんだよ、バカにすんな」
オレは教授に指を突きつけた。
「死ぬつもりや、ヤラれるつもりで行くんじゃない、取り返しに行くんだ。オレが!」
教授は目を丸くしていた。
あなたには選べない。
娘かオレかなんて。
でも、どちらか選ばなきゃいけないのなら、娘を選んで欲しい。
何故なら、オレはあなたを守ると決めたんだから。
オレは教授にさらに言う。
「死ぬつもりはないけど、もしかしたら、オレは犯られちゃうかもしれない。オレが他の男に犯られたら、あなたはオレを嫌いになるのか?」
オレの問いに教授はたじろぐ。
「いや、そういう問題では・・・」
「答えろ」
オレは詰め寄る。
オレの目も据わっている。
教授相手に命令口調で話してる。
「いや、ならない」
「なら、問題ない。オレは行く。で、あなたやあの子やあの人で、オレが を取り戻すのを助けろ」
オレは命令した。
教授は毒気を抜かれたようにオレを見つめていた。
オレは教授を抱きしめた。
「大丈夫。あなたの娘はもどってくるし、オレもあなたは失わない」
オレは優しく囁いた。
教授が、どんな顔して、それを聞いていたのかはわからない。
「君は、君と言う人は・・・」
ただ、そうつぶやき、オレを強く抱きしめたから。
でも、時間はない。
オレ達はとにかく、あの子と、あの人というか、あの人に取り憑いている悪鬼に連絡することにした。
ふざけるな。
オレは本当に怒っていた
絶対に取り返す。
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