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終わりへと進む夜の過ごし方10
おれはやっとアイツを見つけた。
旦那の仕込み刀は、神社の入り口に置いた。
悪いね、旦那。
あんたのおかげで勝ったようなものなんだが、あんたを連れてアイツのとこには行きたくないんだ。
顔も身体も、傷だらけ。
右腕にいたっては手首が斬られている上に、手首から肘までが2つに裂けてしまっている有様。
しかも左腕は親指もねぇ。
こんなおれに比べたら、アイツは綺麗に死んでいた。
木の下に倒れていた。
アイツが木にかけただろう提灯が淡く照らしていた。
首がぱっくり斬れちまっているが、それだけだ。
白い顔も。
綺麗な顔もそのままだ。
ちゃんと男の格好で死ねたんだな。
男の着物を着て、化粧もしてないアイツはそれでも綺麗だった。
隣りに座る。
目を閉ざしてやりたかった。
その目が絶望しているのが辛くて。
でも、おれの手は血まみれで。
血で汚してやるのは忍びなくて。
おれは泣いた。
「可哀想に、一人ぼっちで死なせちまったなぁ」
たった一人で。
こんな寂しいところで。
「お前の手紙な。あちこちにばらまいたやつ。あれ、おれ全部回収したんだ」
お使いにいった見習いの妓に聞いて、おれはアイツの手紙を回収した。
結構な金がかかった。
見世の金まで使い込んだが、今はもうどうでもいい。
手紙とお守り袋は焼いて埋めた。
「お前は自分が悪鬼か何かになったと思っていただろうが、そうじゃないんだぜ」
おれは囁く。
綺麗だ。
こんなになっても、お前は綺麗だ。
「悪鬼なのはおれだけでいい」
おれはアイツに言った。
「おれが間違っていたよ」
おれはなんとかコイツを幸せにしてやりたくて。
それが間違っていたんだな。
おれが連れて逃げるべきだったんだ。
最初から。
邪魔するヤツは全部斬りながら。
もっともっと悪鬼になって。
斬って斬って。
逃げて、逃げて。
どこまでも逃げれば良かったんだ。
それこそお前が行きたがった異国にでも。
それなら、おれが斬ることにだって、もう少しは意味があっただろうに。
どこにも行けなかったとしても、こんな風に一人で死なせやしなかった。
「ゴメンな」
おれは泣いた。
今となっては惚れていたのかもわからねぇ。
いつでも何かに夢中になって駆け出すような。
自分が綺麗なことなんて本当はどうでもいいと思っているような。
抱きしめるしか止めようがないような。
鮮やかな。
鮮やかな。
おれの。
おれは立ち上がった。
おれももう死ぬ。
一緒の場所では死ねない。
先生は神社の外で死んでいる。
おれももう少し離れたところで死のう。
そうすれば、心中途中で追っ手にかかって先生は亡くなり、オレは傷の痛みに耐えかねて自殺したってことになるだろう。
せめて遺る話位は、アイツの想いを遂げてやりたいじゃないか。
おれは立ち上がり歩き出した。
神社の外で旦那の刀を手にした。
「あんたにオレを殺させてやるよ」
おれはそれで自分の喉を貫いた。
そしておれは死んだ。
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