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終わりへと進む夜の過ごし方11

 警察から電話があったと、家のあの子から連絡があった。  可愛い妹が攫われたわりには、あの子は冷静だった。  私は驚く。  あの子がとれだけ妹を愛しているか知っているからだ。  「目的の  さんを手に入れるまでは妹は大丈夫」  あの子は冷静に言った。  警察に怪しまれないために、あの子は家にいることになった。  警察に介入されると面倒だ。  相手は普通の犯罪者ではない。  説明したところで。  取り憑かれた犯罪者など、信じるわけがないだろう。  私は調査のために連絡のつかないところにいることになった。  私が電波の届かぬ場所に数日いることはよくあることだし。  「しかし、相手はおかしいんだぞ」  大丈夫だと言われて私は反論する。  もう、テレビでこの数日の惨状は報道されているし、目撃情報もばらまかれている。  テレビは言わないが、被害者男性は犯されていたことがネットでは囁かれている。       ズボンが下ろされていて 、尻から精液が。  みたいな話がばらまかれている。  どんどん死体が見つかっている。  路地裏、ショッピングモール、駐車場、倉庫、マンション、ガソリンスタンド。  ものすごい勢いで死体は増えていく。  ほとんど男性だ。  娘が攫われた現場にいた、娘の友達のエジソン君は、娘にトラックの上に突き落とされなければ確実に殺されていただろう。   エジソン君は半狂乱になっているらしい。  責任を感じて。  娘が心配だ。  怖がっていないだろうか。  変質者達に酷い目にあわされていないだろうか。 確かに、彼を手に入れるまでは命は無事だろうが。  いたぶられることは考えられる。  「教授、僕達は、なぶられ殺されるために育てられて来たことをお忘れなく」    あの子が電話の向こうで言った。  「僕達は殺されることも含めて、それ程そんなことでは怯えたりはしないんですよ。何かされたとしても、普通の人達よりは受け入れやすい」  あの子は言った。   ああ、そうだ。  あの子とその妹は、殺されるために、それも、なぶり殺されるために育てられてきたのだ。  従順に生け贄になるために。  去年神だか、化け物だかになぶり殺されかけたのは、兄のあの子だった。  彼ら兄妹は、花嫁として捧げられるために存在していたのだった。  彼らは監禁状態のエキスパートだ。  長年軟禁状態におかれつづけてきたのだから。  だから、あの子は自分を拉致監禁した男、つまりアイツと平然と付き合える精神の持ち主なのだ。  「妹は大丈夫。死にさえしなければ大丈夫。だから絶対に生きて連れ帰ってきて下さい」  あの子は言った。   「絶対に連れて帰る」  私は約束した。  

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