100 / 126

終わりへと進む夜の過ごし方13

 初めてあの人にやられた時を思い出す。  後ろ手に縛られたまま、後ろからつっこまれた。  快楽なんかなかった。  怖さと傷みで泣いた。   それでも、殺されるよりはマシだと思った。  「ローションで濡らしてやったろ、きれねーよ」   男は面倒くさそうに言った。  「処女貫通だな」    めり込むように貫かれ、オレの耳元で男にささやかれた。  屈辱と痛みに涙がさらにこぼれた。  容赦なく動かれた。  そう、それでも、ローションをつかってくれたし、指でほぐしてはくれた。  友達二人は、刺されて、何回も南海も刺されてから、そうされていたのに。  次はオレだと怯えた。  「特別だ。殺さないでやるよ」   髪を掴まれながら、それでも思いがけなく優しい声で囁かれたのを覚えている。  オレの、オレの醜い欲望に男は気付いたのだ。  自分が、女に興味ないのはわかっていた。  目が行くのは、同性の身体で。  でもそれは、絶対にダメだった。  「オカマ野郎」  母さんが背中に押し当てるタバコと、投げつけられる言葉。    母さんはオレが何かを知っていて 絶対に許そうとしなかった。  それがバレてからは、オレの背中を剥いてタバコを押し当てる夜には「役立たず」、  それまではそう言われてきたのが「オカマ野郎」に変わった。  学校なんかろくに行かなかった。  せっかく行った高校も、ほとんど行っていなかった。  街で知り合った奴らと吊るんだ。  母さんは小遣いはくれたから。  皆、女が好きで。  オレも好きなフリをした。  オレは顔は良かったから、女はわりとよってきた。  胸を揉み、舌をからませた。  でも、それ以上はどうしても。  でも、酔った仲間の部屋で、皆がソレゾレ女とやり始めているのを目にすれば、立った。  女にではなく、仲間の身体に。  女にではなく、仲間達のソコに入れたかった。  女の胸より、立ちあがっている仲間達のソレを舐めたかった。  一応女の前で勃てていることで、仲間達はオレを疑うことはなかった。  女と最後までしないのは「ああいう女はやっぱり嫌だ」と言えば納得はされた。  毎夜、仲間の身体を思い出し、その中に入れることを考えて自分で扱いた。  母親に見つかれば、「何考えてしてたんだ」とまた煙草を押し付けられた。  バレたら、こんな風に仲間達からも罵られると思うと怖かった。  だから、レイプに誘われた時も断れなかった。  オレは女を押さえつけていた。   「オレはしないよ」  オレは言っていた。  悲鳴を上げている女には何の感情も感じなかった。  「お前が思っているような女なんていないって」  ズボンを下ろしながら、仲間が言った。  「何、コイツどういう女がいいの?」  脚を抑えている仲間が言う。  「お上品な言葉遣いのお嬢さま。コイツあんな言葉遣いの女は嫌だとか、行儀が悪いのはヤダとか言うしさ」  立ち上がったそれを隠しもしないで仲間は笑った。  「ああ、底辺のオレらんトコにはいないな」  脚を抑えている仲間のズボンのソコも立ち上がっていて。  オレはそれを見て立ち上がらせていた。  入れたい。  コイツらを押し倒して、入れて。  「勃ててるくせにな」  仲間達はオレの股間を見て笑った。  「うるせー」  オレはそれだけを言った。  その時だった。  倉庫のドアが開けられて、あの男があらわれたのだった。  「何だよ」  仲間が詰め寄ろうとした。  オレと仲間の手が緩み、女が逃げ出した。  男が立つ、出口へと走る。  止めないと警察にいかれる。  オレ達が焦った時だった。      女は悲鳴も立てず倒れた。  首から血を吹き出しながら。  倒れた女を男は笑いながら何度も、何度も刺した。  それから男はズボンから、オレ達みたいに、いや、この時には誰ももう、勃てていなかったけれど、勃起せてしていたそれを取り出し、射精していた。  ヤバい。  ヤバい。  オレも仲間達もおもった。  男が自分のモノをしまい、血まみれの刀を持って近づいてきた時、オレ達はただただ、震えるだけだった。  男はオレ達のトコにはいないようなタイプの男だった。  金のかかった服は上品で、髪型もオレ達ではしない、さりげなくでも、金のかかった髪で。  スーツを着て、大金を稼いでいるタイプの男だとは分かった。  締まった身体も休みの日に、ジムで鍛えているって感じだ。  どこか冷笑的な口調も表情も、暴力と脅しが横行するオレ達の世界とは違うとこから来た人間なのは分かった。  でも完全にぶっ壊れていた。  片手に血まみれの刀、片手に銃。  こんなの映画でも今時ない。  オレ達を互いに縛らせた時には、まだオレ達はこれから起こることを想像していなかった。  殺されないんじゃないか、と希望を持っていた。  男は冷静に淡々と話したからだ。  だから、一人が首を刺された時には、そんなことが起こるなんて思わなくて。  しかもその後、男が立ち上がらせたそれを、まさか殺した仲間の尻の穴に入れるなんて、そんなことがあるなんて。  オレともう一人の仲間は怖くて泣いた。  でも、オレのソコは立ち上がっていた。  仲間のソコに入れることをオレは何度も夢みていていたからだった。  もう一人の仲間が死体の横にひきずられていき、同じようにされた時も、オレの目は目が離せなくて。  アソコに入れて、腰を打ちつける。     オレはそれをずっと考えていたからで。  オレは仲間が殺されてるのに勃てていた。  殺されてから、ヤラレてるのに興奮していた。  オレは泣いた。  怖かったのと、自分が嫌で。  オレは泣きじゃくりながら、男にヤラレてた。  男は舌打ちした。   最後はオレだと、殺されるのを覚悟した時、男は勃てているオレに興味を示した。  仲間を殺され、その死体が犯されるのに、勃てているオレに。   そしてお前は殺さないでやる、と言った。  「特別だ」と。  そして、確かにオレは殺されず、代わりに突っ込まれた。  「優しくしてやってるのに、ギャアギャア泣くな」    男がイラついた声をあげた。  優しく?  確かに殺されてないし、一応ほぐしてはくれた。   でも、オレはそこに入れられるのはどうしても受け入れられなくて。   「オカマ野郎」  母さんの声が聞こえて。   怖くて。  痛くて。  「もう、許して」  オレは泣き声を上げる。  「つまんねーな」  男は不機嫌そうに言って、オレの中から引き抜いた。   オレはホッとした。  許されたのかと思った。    穴にあてがわれたのは冷たい感触だった。  鉄の。    それが、男がオレ達に突きつけていた銃であることは 、カチャッと激撤をあげる、映画で良く聞こえる音のせいで良くわかった。  「オレのが嫌ならコイツを中に入れて」  ズブズブと冷たいものが入ってくる。  ヒィ  オレの喉が恐怖で鳴った。  「オレの代わりに発射させてもいいんだぜ」  男は囁いた。  そんなひどい行為にも関わらず、すごく優しい声だった。  「優しくしてやってんだ。お前はオレに感謝して、喜んで抱かれろ、いいな」  男は銃をオレのそこでグリグリと動かした。  オレは何度も頷いた。  「いい子だ」  男は笑ったみたいだった。  冷たい銃口は引き抜かれ、また男のモノが入ってきた。  オレは耐える。  泣かないで、声を殺す。  快楽なんてなかった。  恐怖しかなかった。  「お前、具合いいな。狭いけど。慣れたらもっと良くなりそうだ」  男が囁いたことは覚えている。   そんなところに入れられるなんて。  「オカマ野郎」  母さんの罵る声が聞こえる。  違う違う。  オレは唇を噛みしめながら耐えていた。      でも、確かに、銃口を突きつけられ、脅されたりはしたけれど。    そうしろと命令はされたけれども。  仲間の死体を前にして、あの男がしたように押し入った時、感じてしまったのは快感で。  オレは、オレ は。    オレは自分がイカレていることを自覚したのだ。       オレは女が嫌いだ。  化粧の匂いや、塗りたくった色に吐き気がする。  だから、女を近づける時も、出来るだけ化粧してない女にしていた。   化粧の色や匂いは母親を思い出させる。  でも、それを見る度にこみ上げるのが憎しみだったのは知らなかった。  あの男が、母親を殺してくれた時、オレはずっとこの女を憎んでいたことに気付いた。  本当はずっとオレがこうしたかったんだと。  何度も男が母親を貫く度、オレのそこが射精していた。  何度も何度も。  オレは男に自分を重ねた。  男が刺す度に、その肉に刀を突き立てるたびに。  積み重なった憎しみが解放されていくのを感じた。   その後、男に押し倒された時、死んだ母親の横で犯された時、オレは初めて中で快感を感じた。  苦痛だけではない声で、男を受け入れた。  気持ち良さみたいなのが生まれていて。  男は相変わらず、自分本位にオレの中で楽しんでいただけだったけど。   嫌じゃない、そう思った。  オレは刺し殺すってことの意味がわかった。  思うようにすることだ。  罵声を浴びせ、殴り、煙草を押し付けて、自分のためにサンドバックみたいに扱ってきたモノを、ただの肉に変えてしまうってことだ。    それを教えてくれた男を身体に入れることは、そんなに嫌じゃなくなっていた。   それに確かに、最低限の思いやりみたいなものはあって。  母親は煙草を押し付ける時にこの程度の思いやりさえくれなかった。  それに気持ち良くなってきているし、ずっといい。  「感じてきたか?」  男はオレの身体の変化に気付いたのか、笑いなが ら囁いた。  オレの身体が勝手に男のモノを締めつけていた。   ほんの少し、優しく男の指がオレの髪を撫でた。  母さんは、ひどくするだけで、一度でも優しくしてくれたことはなかった。   誰にもそんな風に撫でられたことがなかったので、オレは震えた。  その後、打ち付けられる感覚は、随分、受け入れやすくなっていた。  この人は殺してくれた。  「オカマ野郎」  母さんはもう何も言わない。そんな声はもう聞こえない。  オレをずっと苦しめていたものを、それでも、何故か憎んではいけないと思っていたものを、なんなく殺してくれた。  そんな風にオレはあの男を受け入れていった。           

ともだちにシェアしよう!