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絡まった夜の過ごし方3

 「あなただってお母さんにタバコ で背中を焼かれていた時に逃げていた場所があるでしょ?そこを使うのよ」  わたしは男の子に自分の守り方を教えてた。  男が帰ってくるまで時間はそれほどないはず。  急いで教えないと。  「そこに自分を隠しておけばいいの。ちゃんと扉をしまえば、痛みも感じなくなるわ 」  男の子が虐待ってのを受けていた子で良かった。  わたし達と同じで、心の中に逃げる場所を作り上げているはずだから、その使い方を教えてあげるだけで大丈夫。  「でもあなたの場合は全部をいれちゃ駄目。心の真ん中の一番大切な部分だけ。怖がってもいいし、気持ち良くなってもいいのよ。じゃないと心を閉ざしているのがバレちゃうから。でも 、真ん中だけはその部屋に入れて絶対に渡しちゃだめ」  わたしの言葉に男の子は不安そうだった。  わたしは男の子の手を握りしめた。  「大丈夫、出来るわ」  男の子の目が揺れる。  わたしは悟る。  「あなた、あの人が好きなのね」  わたしの言葉に男の子は頭を抱える。  「わからない、わからないんだ」  男の子が呟く。  「そう。好きでもいいのよ?でも、あなたの心の真ん中はあなたのモノなの。それを渡しちゃ駄目なの」   わたしはいう。  大事なこと。  好きなのは今、命をあの男の人に握られているからで、わたしはストックホルムシンドロームという名前で、その感情はよばれることを知っている。  生き残るためになら人間は恐ろしい人すら好きになる。  それは仕方がない。  「身体でも何でも好きにさせてしまえばいいの。でも、心の真ん中、そこだけは自分のモノ。それだけ絶対に渡さないの。そして最後まで死ななかったなら、わたし達の勝ちなの」  わたしの言葉に男の子は複雑な顔をした。  「渡さないのはいいんだ、それならいいんだ」  男の子が辛そうに呟いた。  「酷くて怖い人なのに、あの人はあの人は」  オレの心のその心の真ん中に、優しくそっと触れてくるんだ  男の子が一番それが怖いってことはわたしにもわかった  男の子の喘ぎ声と、男の荒い息や、呻き声がする。  男の子の声は時折高くなったり、かすれたりする。  私は椅子に縛られたまま、部屋の外の声を聞く。  悲しい声だと  わたしは思う。  どんなに身体つないでも、心にさわっても、男の人と男の子には先なんかない。  もし、この二人の間に何かが生まれたとしてもそれは悲しいだけ。  男の人の行き先にあるのは沢山の血。死体。そしてお終い。  だからわたしは、男の子を引き止めたい。  男の子がお終いに呑まれてしまわないように。  

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