111 / 126

狂騒する夜の過ごし方2

 私は指定された場所にある車に乗り込んだ。   車のカギは指示された通り、後部のタイヤの下においてあった。  後部座席を不自然に覆う毛布をめくる。  おびただしい血の跡だった。  「ここで殺したのか」  毛布を元に戻す。  エンジンをかけた。  そして助手席に話しかける。  「いつからいた」  助手席にはあいつが座っていた。  幽体というものを始めて見たが、実体と変わらなく見えるものだな、と思った。  「あんたがトイレに連れ込まれるあたりからだな」   しれっとあいつは言った。  さすがに赤くなる。   「してるとこは見てない 。一応」    あいつはニヤニヤしている。  「言いたいことがあるなら言え」  私は車を発車させながら言う。  「お堅いあんたがね」  あいつの言葉に言っておかなければならないことを言う。    「お前とは違うぞ。セックスじゃない 、彼が欲しいんだ」   「オレはセックスを通してあいつが欲しいんだからそんなかわんないよ」  あいつの言葉の意味を無言で問う。   「セックスなら感情や欲望がむき出しになるだろ、むき出しになったところであいつを捕まえたいんだよ。むき出しにしない限り、あいつは色んなものをまとって、本音なんか見せてくれない」  まあ、一理はある。  責任感が強く、あの子はいつも自分のことはあと回しだ。  本当の気持ちなど早々口にしないだろう。  「妹の方もヤバいぞ。何されても生き残ったら私達の勝ちだとか言ってたぞ」  私は唇を噛み締める。  今はあの娘のメンタルの強さが頼りだが、それはまだあの子が生贄だった時に必要だったことで。  娘をまだ救えていなかったのかと思ってしまう。  生きていたらいいじゃない。  助かればいい、じゃない。  お前に少しでも傷がつけば、それが悲しむ人達もいるのだと言うことも、分かって欲しい。   でも、今は助かる。  助かっているけれど。  「で、どこ行くの」  あいつはあくびしながら言う。  「警察署の前に死体を捨てる」  「それから?」  「逃げる」  あいつは面白そうな顔をした。  「お前、犯人のふりしてんだろ?銃と刀を持った連続殺人鬼の?」  「ああ」  「射殺許可おりるぞ」  「多分な」  「で、逃げれるの?」  「そのためにおまえがいるんだろ」  命がけの鬼ごっこがはじまる。

ともだちにシェアしよう!