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最後の夜の過ごし方2
「カーチェイスなんかすることになるとはな」
私はアクセルを踏みしめる。
「次右行ってから、左、パトカーの背後に出る」
時折アイツは消えて、パトカーの位置などを確認しながら、アイツがナビゲーションしてくれる。
一瞬で行きたいところに行ける幽体の能力がありがたい。
ラジオに合わせたカーステレオからは、殺人鬼の名前と特徴、それから、今、死体を警察署の前に捨ててカーチェイス中なことを伝えていた。
ヘリコプターの音。
上空から中継されているのは間違いない。
「あんた、こんなことしてたら大学とか辞めさせられるじゃないか」
それどころではない時に、つまらないことを聞く。
「どちらにしろ、辞めるつもりだった。こんな騒ぎだ。娘は誘拐もされたし、この国ではそっとしてくれないだろう。研究は続けたいから、なんとしても続けるが、別に大学にこだわるつもりわない。娘に一番いい環境を探すさ」
私は答えた。
「外国・・・あんた、ただ単に彼が留学するから追いかけて行きたいだけじゃないのか」
アイツの言葉に私はギクリとする。
その考えはなくはない。
「右か左か?」
私は聞く
「右。でも、行き止まりになる。その先は海」
それでいい。
私は窓を開けた。
「・・・待て。アイツを外国に連れて行くつもりか!」
アイツが急に騒ぎだす。
「当たり前だ。家族だからな」
「オレは聞いてないぞ」
「お前は家族じゃない」
海岸だ。私はナップサックを窓から投げた。
テトラポットの上にナップサックは落ちた。
外はすっかり暗い。
ヨットハーバーがあった。
小さな船が沢山止まっている、小さな港だ。
私はそこに車を飛び込ませた。
海から這い上がり、ナップサックのところまでたどり
着く。
服は海に捨てる。
私は似合わない、似合わないと言われた服をやっと脱ぎ捨て、用意していたズボンとシャツをナップサックから取り出して着る。
濡れた髪は帽子の中に隠し、夜の闇の中ここを離れる。
「警察は?」
アイツに尋ねる。
「もうすぐ来る。このヨットハーバーの入り口から抜け出した方がいい」
いつのまにか横にいるアイツが 答える。
ここを抜けさえすれば、警察がおっているのは私と似てもにつかぬ男だ。
「それより、神社に急げ。大変なことになってるぜ」
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