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最後の夜の過ごし方4

 「お前も逃げ出した」  男は男の子の首を投げ捨てながら、オレに近づきながら言った。  その声は年配の男の声と、若い男の声の二種類が重なった声だった。  オレは後ずさった。  この距離から背中を向けて逃げるのは、余計に危険だとオレは判断した。  オレは後ろ手に拘束バンドで縛られていたし、ズボンや下着がずり落ちた格好だ。  これではマトモに走れない。  仕方ない。    ヤらせながらチャンスを待つ。  すぐ殺さないのならば、チャンスは来る。  でも、とも思う。  あの男の子は、悪いモノの精を身体に受けたことで、死なない身体になったということ。  オレは今のところ、突っ込まれたけど、出されてはいない。  嫌だ、あんな風になるのは嫌だ。  「優しくしてやったのに」  真っ黒な顔が 二人の声で叫びながらオレに近づく。  「特別だと言ってやったのに」  血まみれの手がオレに伸ばされる。  オレは動かない。  耐える。  刀を持った手で抱きしめられ、もう一方の指がずり落ちた下着のせいでむき出したオレの尻をなでる。  手についた血の感触が伝わる。  ぞっとした。  指はオレの穴の周囲を撫であげる。  こんな、こんな、撫でるだけなのに、何故。  オレは恐怖を凌駕する快感を感じていた。  思わず迎え入れるように腰が揺れる。  血をローション代わりに、男の指が穴の中に入ってくる。  「い、嫌だ」  思わず叫んだのは、すごく良かったからだった。  ねっとりと動かされる指は、やはり、脳に直接響くような快感を的確にオレに与えた。  何で、何で。  「ここでする事も教えてやった。優しくしてやった。なのに、なのに」  二人の男が黒い穴のような顔から、オレに向かって言っていた。      オレの中の遊女に言っていた。  穴しかない顔が、目の前にあった。  「何故裏切った、何故逃げた」  かき回される穴。  焼ける脳。  オレは耐えられず叫びながら、射精していた。  「嫌だ、嫌だぁ」  オレは泣き叫んだ。  よすぎた。  気持ちいいなんて。  地面に押し倒されて、肩に足を担がれ、入れられる。  身体の中に入ってくる感覚も、こすられる感覚も、何もかもが、今まで知らなかった位気持ち良かった。  脳を直接犯されているみたいだった。  ひぃい  悲鳴のような声しかでない。  気持ちいい。  立て続けに射精していた。  止まらない。    でも嫌だった。    オレは叫んだ。  この化け物が良すぎて。     ああ、気持ちいい。  気持ち良すぎる。  「教授、教授!!」  オレは叫んだ。  教授がいい、教授のがいい。    どうして?   気持ちいいじゃないの。   受け入れてしまえばいいじゃないの   どうせ、どうにも出来ないなら。  オレの中の遊女が言った。    「嫌だぁ」  オレは止まらない射精をしながら泣き叫んだ。   そうやって、諦めたのか。   仕方ないと。   そうやって、諦めて、死だけを見つめたのか   死以外の方法でこの男から逃げないで。  オレは遊女に言った。  「  !!」  オレは教授の名前を呼んだ。  何度も何度も呼んだ。  それだけがオレを正気に繋ぐ魔法だった。        「他の男の名前を呼ぶな!!」  男達は絶叫した。  その瞬間、そう叫ぶ男の首が飛んだ。    切り口から吹き出すあたたかな血をオレは全身に浴びた。  首を失いながら、オレに落ちてくる身体。  その瞬間、男はオレの中で射精し、その感覚にオレもイっていた。  優しく抱き起こされた。  教授だった。  片手に山刀を手にしていた。  「教授・・・」  オレはボンヤリ呟く。  夢?  夢なのか。  「遅くなった。ごめん」  抱きしめられた。  「手を解いて」  オレは頼む。  教授は山刀でオレの拘束バンドを切ってくれた。  両腕ですがりつく。  「頑張ったな」  何度も髪を撫でられる。  「来てくれるって信じてた」   オレは教授の胸に顔をうずめる。  こんな甘えたような真似、普段だったら絶対しないけど。  いいだろ、今は。  教授が笑った。  オレの、恋人。  「もうすぐ、あの子も、アイツに取り憑いたヤツも来る。途中で合流したんだが、警察やらマスコミが邪魔でね、取り憑いたヤツがコレを家から持ち出していたから、私だけコレ持って先に来た」  「山刀持って繁華街走ってたんですか。何考えてるんですか、それにそんなモノよく使えましたね」  「木ぐらいしか斬ったことなかったけどね」  教授は笑った。  「   は?」  教授の娘の名前を呼んだ。  ちゃんと保護されたのだろうか。  「あの子といるよ」  教授が安心させるように言った。  「良かった」  オレは目を閉じて、少し休もうかと思っ、   危ない  オレの中の声が言った。  オレは目を開く。  「どうした?」  教授が不思議そうに言う。    首のない男が立ち上がっていた。  刀を持って。     顔がないためか、男の動きは緩慢で、なのでオレは間に合った。  教授へその刀が振り下ろされる前に、教授を突き飛ばし、オレがその身体の上に覆いかぶさることができた。  オレがこの人の代わりに斬られることができた。  良かった。    斬られたのはオレの大事な人じゃない。  どうせ死ぬなら、この人のためがいい。    オレは満足していた。    そう、そうなの、そうなんだね    それがあちきとあんたの違いなんだね  オレの中で遊女が言った。      そうだよ。    どうせ死ぬならこの人のためじゃなきゃ  オレも答える。  教授が叫んでいた。  早く逃げて。  オレはいいから。    教授は逃げなかった。  馬鹿だ  でも刀は振り下ろされことはなかった。      

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