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最後の夜の過ごし方5
「遅くなっちまって」
おれは恋人を抱き締めた旦那に頭を下げた。
マスコミやら役人やらを巻くのに時間がかかってしまった。
結論からいえば、おれが警察とかいう役人を叩きのめして、綺麗な兄さんを連れ出し、マスコミとかいう連中の一人を脅して、そいつの車でここまできた。
おれがいなくなった後で、この身体の兄さんはかなり面倒なことになるだろうが、まあ、あの性格だ。気にしないだろう。
あの兄さんは綺麗な兄さんとする事以外は本当にどうでもよいようだし。
おれの蹴りに首を失った男は、倒れていた。
学者先生の恋人は背中を斬られていた。
大丈夫、深手じゃない。
学者先生は半狂乱になっている。
「先生、先生の良い人は大丈夫ですぜ。医者に連れて行けば助かる」
おれの言葉が聞こえたから知らないが、おれは先生の近くに投げ出されていた山刀を手にする。
どれくらい斬れば死ぬ?
「それでは死なない」
綺麗な兄さんの声がした。
兄さんの妹が兄さんに張り付いていたが、そっと離れるように促される。
大人しく妹は離れる。
兄さんは倒れた男の前に立った。
手に持つのは白い布に巻かれたものだ。
磁石で引かれるように、男の首が身体に戻る。
ゆっくりと起き上がる
コレは人間の姿ではない
顔が真っ黒な穴だ。
空っぽだ。
旦那 、あんたは空っぽの中に恨みだけ詰め込んで生きてきて、とうとう空っぽそのものになっちまったのかい。
「私のものだ」
空っぽが吠えた。
綺麗な兄さんに向かって刀を向けていた男を、おれが斬る。
手、足と切り落としていく。
また男は崩れ落ちた。
でもその切り落とした手足は蠢く。
またくっつこうとしているのだ
冷ややかな目で綺麗な兄さんはそれを見ていた。
兄さんは、綺麗だ。
眩しい。
ああ、人間ではない。
兄さんは持っていたモノから白い布をとった。
それは青い光に包まれた剣だった。
家から持ち出した時にはボロボロに朽ちた鉄クズにしか見えなかったのに。
兄さんはとても美しく。
普段の兄さんは綺麗ではあっても、のんびりおっとりした気のいいだけの青年でしかなかったのに、
今ここにいる兄さんは、神々しかった。
そして兄さんは剣を振った。
倒れた悪鬼にむかって。
それだけで良かった。
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