121 / 126

最後の夜の過ごし方7

 私はアイツの腕の中から彼を取り戻した。  「もう、取り憑いていたモノは出て行ったんだろ、いつまで抱きしめてている」  私の言葉にアイツは肩をすくめた。  「いや、抱きつかれてたから、条件反射」  「そんな反射などない!」  私はどなる。  ああ、いつものアイツだ。  彼はぐったりしている。   病院に連れて行かなければ。  私は彼を抱えあげた。  その時、叫びながらやってきたモノがいた。  血塗れの少年。  「君は、僕を車でハネた・・・」  あの子が呟く。  少年は死んだ男に取りすがって泣いた。   泣き叫んだ。  そのすがりつく指の先は何本かなかったが、どこからともなくとんできて、ゆっくりとくっついて行った。  「車の中でも潰れていたはずなのに。再生するのか」  あの子が言った。  「   くん」   あの子にしがみついていた娘が、少年に叫んだ。  そうか。  この少年か。  「お友達」か。  でも、この少年は、もう。  人間ではない。  駆け寄ろうとした娘を、あの子が止めた。  少年は死んだ男に口付けていた。  何度も何度も。  そして、呆然と見守る私達の目の前で、男のズボンを下ろし、男の死体を犯しはじめた。    さすがに、言葉がない。  狂っている。  呆然と見守る私の横で、あの子がつぶやいた。  妹を抱き締めながら。     「ずっと、そうしたかったんだね」     血塗れの少年は泣き叫びながら男を犯していた。    「オレはあんたが、あんたが、あんただけが!!」  その先の言葉は続けられることはなかった。    少年の背がしなり、少年が男の中で達したことがわかった  壮絶な光景。  でも少年はおそろしい程に美しかった。   少年は男から身体を離した。  無造作にズボンをあげ、男の刀を手にした。  少年の目はあの子だけを見ていた。  「やめて!」  妹が叫んだ。  少年の耳には届かない。   少年は刀を構えた。  アイツがあの子を守るように山刀を持って前に出たが、あの子が醒めた声で言った。  「それでは死なない」  あの子は剣を構えた。  剣は青く輝いている。  見せてもらった時には鉄クズでしかなかったのに。  あの子は美しい。  冴えるように美しく、冷たい。  これも、あの子なのか。  「お友達なの、やめて」  娘が震える声で、あの子にしがみつく。  あの子は一瞬躊躇した。  その瞬間、少年は襲いかかってきた。  でたらめに振り回した少年の刀が、あの子に届くことはなかった。  アイツが、あの子の腕をつかんで、あの子の剣を少年に突き立てていたからだ。    「何を」  あの子もあっけにとられていた。  あの子の腕を剣の柄のようにして、アイツは少年を躊躇なく刺し貫いた。  少年は目を見開いたまま、倒れた。  娘が悲鳴をあげた。  アイツは少年に駆け寄る娘に言った。    「殺したのは俺だ。忘れるな」  何の感情のない声だった。  「あんたなんか大嫌い!!」  娘が叫んだ。  私もおそらく、あの子も、アイツに感謝した。  私達は少年を殺さなければならなかった。  でも、娘に恨まれるのは嫌で。  だから、アイツはそれをしてくれたのだとわかっていたから。

ともだちにシェアしよう!