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優しい夜の過ごし方1
娘と娘の友達のエジソン君と、星を見にきていた。
テントを張り、焚き火をしている。
学校はずっと休ませている。
私も休職中だ。
あれから数ヶ月たっていた。
騒ぎはやっと収束してきた。
騒ぎを全部引き受けたのはアイツだった。
連続殺人犯を殺した作家は、警察の尋問も、マスコミの質問も全部引き受けた。
時に見せる、不遜な態度は賛否両論を呼び、誘拐された少女である娘や、なぜか殺人現場にいた私やその息子であるあの子、そして彼。
私達の存在は霞むようになっていった。
殺人犯を殺した作家。
一人はアイツによって手足が切り落とされていたのが明白で死因はそれだと思われた。
もう一人の最初は被害者であったが、従属的に殺人に協力していたと思われる少年は、その大量の血液が流れた跡があるにもかかわらず 、身体には背中にある煙草を押し付けられた虐待の痕以外には、傷一つなかったので死因が全くわからなかった。
警察も最終的にはアイツの語るもっともらしい話で収めるしかなかった。
それにこれは私の推測でしかないが、前回の【町】での事件の時でも思ったのだが、公的にはともかく、そういった事件について何らかの力が働いている可能性がある。
アイツは正当防衛かどうかも争われたが、結局不起訴になった。
解決など出来ない謎があまりにも多すぎたのだ。
不思議な物事を扱う作家の、不思議な事件。
そして作家が殺人鬼を殺したことは大騒ぎになり。
アイツの本は今、バカ売れしているらしい。
とにかく、アイツには感謝している。アイツは全部引き受けたのだから。
もちろん、あの子の為だけにだろうが。
ただ、この騒ぎで数ヶ月あの子に会えなくて、電話でずっと「生き霊になりたい」とボヤいていた。
でも 、アイツからの電話の後、部屋から出てくるあの子の顔が妙に上気しているとことかみると、まあ、電話でも何かしらはしているんだろう。
恋人と数ヶ月あえないなら、声でだけでもしたくはなるだろう。
同じ男としては理解する。
娘が望遠鏡を覗きながら笑う。
エジソン君が月について説明している。
二人は楽しそうだ。
彼は毎日家にくる。
例え30分でも娘に会いに。
たった一人の娘の友達。
でも娘は切り出す。
そのために今日は来た。
一晩中星を見る許可をエジソン君の両親にもらったのもそのためだ。
「わたしね、引っ越しするの。外国に行くの」
娘が言う。
エジソン君が固まる。
「でもね、ずっとお友達でいてくれる?」
娘が云う。
私は焚き火のそばで、二人の夕食を作るのに忙しいふりをする。
見ないふりをしてあげよう。
「そんな、そんな」
エジソン君は動揺する。
彼は本当に素直じゃないし、小生意気だし、やたらとプライドの高い典型的なガリ勉くんだが、 (「昔のオレかなアイツ」と彼がエジソン君を見て言っていた、「ガリ勉メガネ」だったそうだ)娘が好きなことを隠したことなど一度もないというか、隠せないのだろう。
「お友達でいて。ずっとずっとずっと」
娘がエジソン君の手を握りしめて言う。
娘は友達を失うことにおびえている。
友達がいなくなってしまうことに。
二人目の友達は目の前で死んから。
エジソン君は真っ赤になる。
私はいささかエジソン君が気の毒だ。
「ずっとずっとずっと死ぬまでお友達でいて欲しいの」
娘は訴える。
いや、多分エジソン君は友達ではない未来を思い描いているぞ。
それはそれで私には面白くないんだが。
「う、うん。当たり前じゃないか」
そこでそう言ってしまうエジソン君が私は好きだ。
そこでガツガツ来るような男に娘の周りにはいて欲しくない。
「本当。わたしに会いに外国に来れたら来てくれる?」
娘が尋ねた。
「行くに決まっているだろう」
エジソン君が即答した。
あ、これ本当に来るな。なんとしてでも。
「本当!」
娘か嬉しそうに笑った。
父としては、娘のボーイフレンドは難しい問題だが、エジソン君は勇敢だ。
彼は刀と銃を持つ男たち相手に一歩も引かなかったのだ。
いつか、大人になったら、もっともっと先になったら、10年以上後でもいい、すぐは絶対に許さないが、 友達以上に昇格できるよう頑張れ。
食事が出来た。
わたしは二人を呼ぶ。
今日は三人で、星を見て過ごす。
娘は大丈夫 。もう大丈夫。
問題は、だ。
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