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裏口から喫煙コーナーに出てきたのは、同ショップの営業職に就く京和倫平 (26)だ。
倫平は立ったまま、無言でタバコを取り出すと火をつけて吸い始めた。
「・・・店長もどうですか?」
下を向いたままの眞央は、倫平のその言葉に反応するように無言で右手を倫平の方に差し出した。
倫平はタバコの箱とライターを一緒に渡す。
「・・・俺、やっぱり、タバコは紙タバコじゃないと吸ってる気になんないんですよねー。
煙を浴びたい派なんですよー」
眞央は、タバコに火をつけると、吸うなりむせた。
「大丈夫ですかー?」と、倫平
「・・・8年ぶりぐらいだからな、吸うの・・・」と、ゴホゴホと咳き込みながら口にした眞央。
「・・・大丈夫ですよ、無理なんかしなくて」と、倫平が優しく口にした。
「俺は全然大好きなままですよ」
「・・・・・」
「俺達従業員のことを褒めて叱って、毎回フォローしてくれて。
そんな店長だからこそ、みんな、信頼してついてきてるんです」
「・・・・・」
「大丈夫ですよ。
俺が変わりませんから」
「・・・・・」
「俺がちゃんと分かってますから」
「・・・・・」
「店長はちゃんと信頼に値する人だって」
「・・・・・」
眞央は思わず倫平の顔を見た。
優しく微笑む倫平の顔に、眞央はドキっとした。
「あの女性が何か勘違いしてるんでしょう。
だから、くれぐれも変なことは考えないでくださいね」
眞央を見つめて口にした後、倫平は照れくさそうに笑った。
その照れ笑いに、今度は眞央の心がキュッとなる。
眞央はこのとき初めて京和倫平という男が自分のショップにいるんだという認識が生まれたような気がした。
仕事の出来る営業マンで頼りにはしているが、眞央にとってはあくまでも仕事のできる部下の内のひとりという認識程度だった。
「カッコつけましたけど、実を言うと、ジャンケンで負けまして。
代表で店長に何か気の利いた事を言って来いって言われました」
「・・・・・」
「でも、今言ったの全部、俺の本音です。
俺は自分の目で見てきた店長を信じてますんで」
「ありがとう」
「みんなも心配してるんで、安心して、いつもの店長に戻ってください」
「悪いな。
みんなにも気を遣わせて」
「大丈夫です。
みんなも俺と同じ気持ちのはずですから」
「ありがとう。
もう少ししたら店にちゃんと戻るから」
「じゃあ、俺は先に戻りますね」
倫平はそう言うと、タバコの火を消して、ショップに戻った。
倫平が居なくなると、眞央はどこか気が抜けたようにベンチの背にもたれかかった。
自分の生き方を肯定してくれてる人がいる。
それだけで、またこの場所でやり直しても良いんだと許しを貰えた気がしたからだ。
さっきまでの姿勢が嘘のように眞央は少し顔を上にあげることが出来た。
少し落ち着きを取り戻した眞央は倫平に返し忘れたタバコの箱とライターが手の中にあることに気がついた。
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