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翌日―。 『BSC』の星ノ空支店はすぐに日常を取り戻していた。 「はいっ! 申し訳ありません! 今すぐ伺いますっ!」 倫平は電話口で平謝りすると、急いで外回りの支度を始めた。 「店長。 天野さんからクレームが入ったんで、今すぐ向かいます」と、倫平は眞央に声を掛けた。 「分かった。 頼んだぞ」 「はい」 倫平は慌ただしく出て行く。 「また天野さんか~。 ウチの上お得意様ですけど、あの方はクレームが多いから、担当の京和は毎回大変だよな~」と、歳の割には恰幅の良い副店長の木下(32)が同情にも似た表情で倫平の慌てて出て行く後ろ姿を見送った。 眞央もまた同じことを思い、倫平の後姿を見守っていた。 ※  ※ 夕暮れ。 ショップの裏口にある喫煙コーナーに眞央は顔を出した。 クレーム対応に出かけていた倫平が今さっき戻ってきたからだ。 疲れた表情を見せた倫平は缶コーヒーを片手にタバコを吸いながらひと休みをしている様だった。 「おつかれさん」と、眞央は声を掛ける。 「お疲れ様です」と、倫平は慌ててタバコの火を消す。 「あ、構わないよ、もう少し休憩してても」 「すみません」 「天野さん、相変わらず大変だったか?」と、労う眞央。 「まあ・・・。 でも、天野さんは悪い方ではないんで。 話せばいつも分かってくれる方なんで。 上手く対処できてると思います」 「そうか・・・」 しかし、倫平の表情はどこか冴えない。 「どうかしたのか?」と、眞央は気にかけた。 「へ?」 「いや、なんか悩みでもあるのかなって・・・良かったら聞くぞ」 「そんな顔してますか?」 「まあ、なんか疲れてはいるのかなって・・・あ、そうだ」 と、眞央は思い出したように、 「これ、返し忘れてた」と、眞央は倫平にタバコの紙箱とライターを手渡した。 「ありがとうな。 昨日のお前のお陰だよ。 今日も出勤することが出来たのは」 「・・・・・」 「感謝してる」 「・・・・・」 眞央はニコって笑みを残すと踵を返した。 「店長!」と、呼び止めた倫平。 「ん?」 「失礼でなければ教えて頂きたいんですけど」 「どうした?」 「男同士の恋愛ってどんな感じなんですか?」 「・・・・・」 全く想像していなかった質問に眞央の表情は固まった。 「・・・あ、すみませんっ! やっぱり失礼でしたね」と、倫平は眞央の表情を見て慌てて平謝りした。 「いや、まあ、それは良いんだけど・・・」と、気にしてない風を装った眞央だったが、心の中では「やはり、オレはゲイだということで職場では認識されたか・・・」と、嘆いた。 「・・・ひょっとして、悩みは仕事の悩みじゃない・・・のか?」と、眞央。 「まあ・・・」と、倫平は申し訳なさそうに頷いた。

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