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幾日か過ぎ―。
眞央は昼休憩を兼ねて、喫煙コーナーにやってくると、スーツの内ポケットからタバコを取り出した。
タバコの銘柄は倫平と同じ銘柄だった。
眞央はタバコに火をつけると一服を始めた。
数日前から、何年と止めていたタバコをまた吸い始めた。
理由は簡単だった。
見知らぬ女に平手打ちを食わされた事件以降、従業員らの気遣いが痛いほど伝わってくるからだ。
それは一般的に想像されるような差別的なものなどではなく、どちらかと言うと、同情的というか、腫れ物には触れたくないというような、必要以上の気づかいをされてしまうことだった。
例えば、先日、眞央の元に営業職の部下がやってきた。
「店長、申し訳ないんですが、月末の日曜日にお休みをもらえませんか?」
「どうして?」
「姉のことなんですが・・・」と、口ごもってしまう。
「お姉さんがどうかしたの?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・結婚式をあげるんです!」
「そう。おめでとう」
「・・・すみませんっ! 結婚式なんて!」
「へっ・・・?」
「それでは休暇の件をよろしくお願いしますっ!」と、逃げるように去っていく。
「はい・・・(すみませんってなに??)」
や、
昼休憩中に、
「昨日のドラマの最終回見た?」
「見た。
まさかガッキーが不倫される妻を演じる上に殺人犯まで演じるなんてねー」
「そうそう。
最後、旦那の愛人を絞め殺しちゃうなんてねー」
「もう、ガッキーが可哀相で涙が出てきちゃったわよ」
「私も。良い最終回だっだよね~」
と、事務職の女子社員達が楽しそうに会話しているのを聞いた眞央。
「面白そうなドラマだね。
タイトル教えてよ。
ネットで配信されたら見てみようと思うから」と、ふたりに話しかけた眞央。
女子社員は顔を見合わせると、
「全然面白くないですよっ」
「くっだらないドラマですよ」
「そうそう。見なくて良いですよ、あんなドラマ」
「時間の無駄ですよ」
「ねえ~」と、最後は二人で声を合わせて話を終わらせてしまった。
仕事の伝達以外、必要以上にほとんど話しかけてこなくなったのも、従業員たちの気遣いだと充分に伝わってくるのだが、眞央にとってはなんともそれが居心地が悪く、いつも以上に疲れてしまう職場の空気感だった。
そんなところから少しでも抜け出せる機会を作る為、眞央はまた喫煙を再開させてしまった。
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