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眞央が一服を終えるころ、倫平が喫煙コーナーにやってきた。 「あれ、店長はタバコは吸わないんじゃ・・・?」と、眞央の喫煙する姿を見て不思議そうな顔で問いかけてきた。 「まあまあ、色々あんだよ」と、眞央は本当のことはあえて口にはしなかった。 眞央の隣に座ると、倫平もタバコに火をつける。 「店長・・・」 「ン?」 「俺、結局ふられました」 「ハハハ」と、笑ってしまった眞央。 「笑うとこじゃないですよ」と、不服そうに口を尖らせる倫平。 「すまん、申し訳ない。 けど、お前のことだから、なんかしでかしたんだろうって思ってさ」 「どうしてそう思うんですか?」 「勘だな。 部下のことはこれでもちゃんと見てるつもりだから」 「・・・・・」 「だから、忠告してやっただろう。 大切にしないとしっぺ返しを食らうって」 「これって、しっぺ返しなんですかね・・・」 「なに?」 「俺・・・中折れしちゃったんです・・・」と、倫平は真面目な顔。 眞央は目をパチクリとさせた。 「・・・マジで?」と、眞央。 「マジです」 「ハハハハ」と、また笑いを噴き出す眞央。 「だから、笑うとこじゃないですって。 ホントひどいな~」と、ムッとする倫平。 「すまん、すまん」と、平謝りする眞央。 「これって男の由々しき問題ですよ。 俺、ふられたことよりも、そっちの方で真剣に悩んでるんですから」 「笑って悪い・・・でも、そんな心配すんなって。 プレッシャーか何か感じてたんだろう?」 「やっぱり、男にとってプレッシャーって大きいですよね・・・。 なんか面倒くさいな~、エッチでもしてやれば彼女の機嫌が直るのかな~、なんて思ってやってたら、中折れっす」 「最低・・・事件を起こしたオレより最低。 オレより最低なやつがここにいた」と、また笑う眞央。 「いや、それはないですよ。 店長よりはマシですよ」 「いいや、仲直りエッチで中折れって相手にとってめちゃくちゃ失礼な行為よ。 そりゃ、フラれるわ」 「俺も初めてですよ。 ハァー、中折れなんて・・・マジか・・・。 マジで面倒くさいことになってきた・・・。 今後、ヤる度に中折れしまくったらどうしようっていう、プレッシャーが重なって、また中折れ男再びみたいになったらどうしよう・・・」と、倫平は天を見上げた。 倫平の嘆きに「アハハハーッ!」と、また釣られるように笑う眞央。 笑いが収まり出してきたころ、 「そんな深刻に考えるなって。 じゃあ、一回、オレで男でも試してみるか?」と、眞央は冗談で口にする。 「えっ・・・」と、真顔になる倫平。 「!」 倫平の顔を見て、眞央はハッと事の重大さに気づいた。 「ごめんっ! 冗談・・・のつもりだったんたけど・・・」 眞央は急いでベンチから立ち上がると、深く頭を下げた。 「本当にすみません。 ごめんなさい。 ・・・気持ち悪いこと言ったよな。 失言しました。 てか、セクハラになることに気づくのに遅れました。 本当にごめんなさい。 お前と話してたら、つい楽しくて調子に乗りました」 「いえ・・・」 「ホントに反省してる」 「はあ・・・」 「まあ、体のことはそんな気にするな。 若いんだから」 「・・・・・」 「じゃあ、オレは戻るから。 ホントすまなかった」 眞央はもう一度頭を下げると、逃げるようにその場を去った。 裏口のドアを閉め、ショップに戻った眞央は猛省した。 《ヤバいっ・・・本社に報告されたら、今度こそマジで終わりだ・・・。 折角、この前の不倫の一件は従業員みんなの協力で乗り越えられてるのに・・・なにやってんだよ、オレは! しっかりしろっ!》 眞央は自分に気合を入れるように大きく息を吐いた。

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