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納車の予定時刻に無事に客に購入車を渡し終え、眞央と倫平がショップに戻ってくると、閉店時間の19時をとっくに過ぎているせいか、他の従業員らはみな帰路についていた。 裏口から入ると、眞央はやり残していたデスクワークを片付け始める。 帰り支度を済ませた倫平は、眞央の姿をじっと眺めた。 愚痴も零さず、嫌味も言わず、従業員らのミスも責めることなくカバーに入り、そして、また自分がやり残した仕事に黙々と向かう眞央の姿。 私生活はどうなのか知らないが、眞央の店の責任者として人一倍頑張る姿勢はやっぱり好感が持てるなと思い、倫平はその姿を眺めていた。 「よしっ!」と、眞央は全て片付け終わった書類整理と共にそう声を洩らした。 倫平はその声に気づくと、自分はどれくらいの時間、眞央を眺めていたのだろう?と慌てた。 「今日は助かりました。 ありがとうございました」と、倫平は声を掛けた。 「おう、なんだ、まだ居たのか? お疲れ」と、微笑む眞央。 「明日、休みだよな?」と、眞央。 「はい」 「オレも休み。 お互い良い休日を」と、眞央は笑顔で口にする。 星ノ空支店は基本定休日はなく、従業員達が交代勤務を組むことによって、それぞれが休日を得る仕組みとなっている。 働き方改革の影響もあり、本社から隔週で週休二日制も義務づけられている。 倫平は裏口に向かった。 が、立ち止まると、振り向き、 「店長」 と、声を掛けた。 「ン?」 「明日休みなら、これから食事にでも行きませんか?」 眞央は掛け時計を見た。 夜の九時を回っている。 「うわー、もうこんな時間か・・・。 納車のお客様の説明に手こずって帰ってくるの遅れたもんな~」と、背伸びした眞央。 眞央は倫平に視線をあわせた。 「なんか、食いたいものでもあるのか?」と、眞央。 「え?」 「奢れってか? それでオレに声をかけたんだろう?」 「あー、はい・・・焼き肉が食いたいなーと思って」 「大きく出るな―」 「俺、安くて旨いとこ知ってるんですよ」 「じゃあ、奢るから、お前が運転な」 「えっ、ホントに良いですか?」 「ああ。 お前には色々と助けてもらったし。 御礼も兼ねてな。 でも、みんなには内緒にしておいてくれよ。 全員に焼き肉をご馳走するのはさすがに無理だから」と、苦笑した眞央。 「よし、じゃあ、行くか」と、眞央は帰り支度を始めた。

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