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眞央は裸のまま脱衣所に一人残って、洗面台にある鏡を見つめていた。
《バレてないよな?
あいつにオレの気持ちはバレてないよな?》
眞央は自分自身を諭すように鏡に映る自分を見つめる。
《あいつは同じ職場の部下でノンケだ。
しかもただのセフレだ。
絶対に恋なんかしちゃいけない相手だ》
「泣くのはお前だぞ」
眞央は鏡に向かって自分自身に言い聞かせるように口に出した。
「眞央」と、倫平がすでに呼び慣れた口調で名前を呼んで、脱衣所に入ってきた。
「?!」と、名前を呼ばれることに慣れない眞央はまだドキッとする。
倫平は「これ」と言って、パジャマ代わりにと自分のスウェットの上下を持ってきた。
「ありがとう」と、受け取る眞央。
「すごく素敵な名前ですよね」
「へ?」
「『眞央』って」
「そうか?」
「はい。
店長にめちゃくちゃ似合ってます」と、微笑む倫平。
「・・・・・」
眞央はどう対応して良いか分からずドギマギした。
※ ※
眞央がスウェットを着てリビングに戻ってくると、倫平がソファでブランケットを持ち出して寝る準備をしていた。
「俺はここで寝ますから、眞央はベッドを使って」
「いや、いいよ。
オレがソファで寝るよ」
「いや、いいですよ」
「いや、いいって」
「・・・じゃあ、一緒に寝ます?」
「はあ?!」
「ベッドで」
「いや、いいよっ!
男ふたりで寝るには狭いし」と、焦る眞央。
「じゃあ、こうすれば良いんじゃないですか」と、倫平はベッドに移動した。
そして、眞央もベッドに来るようにと手招きする。
眞央がゆっくりとベッドの側まで来ると、
「ここに寝てください」と、マットの上を手で軽く叩いて、倫平は指示を出した。
眞央は言われた通り、ベッドの上に仰向けに寝転がった。
続いて倫平が眞央の方に顔を向けて横向きで寝転がった。
「頭をあげてください」
眞央は頭を上げた。
「!」
倫平は眞央が頭を上げると、自分の右腕を眞央の首の下に通した。
「えっ・・・」
「頭下げていいですよ」
「・・・・・」
枕と肩の間に出来た首の下あたりの空間に倫平の右腕が通された。
まるで、倫平に腕枕をされてるような雰囲気になって眞央は困惑した。
「こうすれば、俺も眞央もしびれたり体勢が辛くなったりしないから」
そう言うと、倫平は抱き枕を抱くように、左腕と左足を眞央の体に絡みつけた。
「!!」
眞央は焦った。
《いや・・・これは今のオレにとってはドキドキで眠れなくなる・・・》
「ずっと、この体勢は京和が辛くないか?
横向きでずっと寝るんだぞ」
「倫平です」
「へ?」
「倫平です」
「・・・・・」
「これから二人だけの時間は俺のことを倫平って呼んでください」
「・・・・・」
眞央は心底参ったと、心の中で頭を抱えた。
これからこんなことをされ続けたら、押さえこまなきゃいけない気持ちが押さえつけられなくなる。
「!」
倫平がいきなり眞央にギュッと抱き着いてきた。
倫平の顔と眞央の顔が密着しそうなくらい近い距離になる。
「あ、眞央が俺と同じ匂いがする」
「へ?!」
「眞央の頭から同じ匂いがする」と、軽く笑う倫平。
「当り前だろう。
同じシャンプー使ったんだから」
「なんでだろう、ちょっと嬉しい・・・」
「・・・・・」
「おやすみなさい・・・」
倫平は眠そうな声で口にする。
「えっ!?
今日はもうやんないのか?」
「だって、したら、明日、眞央の体が辛くなるよ。
どこにも行けなくなる・・・」
「・・・・・」
「明日、どこ行く・・・?」
「そう・・・だな・・・」
「行きたいとこある・・・?」と、疲れていたのか、この言葉を最後に倫平から寝息が聞こえてきた。
それが確認できると、眞央は倫平が起きないようにゆっくりと自分の体を倫平の顔と向き合えるように横向きの体勢をとった。
倫平の寝顔を間近で見つめる眞央。
《どうしよう・・・。
やっぱり、今、こいつのことをめちゃくちゃ愛しいって思ってる。
恋なんかするつもりなかったのに。
恋なんかしたくなかったはずなのに》
眞央は倫平が起きないように小声で口にした。
「オレは絶対、倫平って呼べない・・・」
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