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それから、『BSC』星ノ空支店はいつもの日常と変わりなく営業が続いていた。
営業開始前に店内の清掃をショップの従業員らの手で行っていると、事務の女子社員が倫平の顔を見て、
「京和さん、大丈夫ですか?」と、心配した様子で声を掛けてきた。
「え?」
「ここ2,3日、めちゃくちゃ顔色が悪いですよ」
「そう?」
「なんか目もずっと腫れぼったいし」
「・・・・・」
「失恋で泣き明かしてるとか?」
「へ?」
「それで眠れてないとか?」
「・・・・・」
「って、それはないですよね~。
恋愛不適合者の京和さんに限ってそれはないですよね~」と、冗談だと言わんばかりに笑う。
「海外ドラマですか?
ゲームですか?
ドはまりして夜更かしてしちゃ駄目ですよ」と、女子事務員は続けた。
「・・・俺って、恋愛不適合者なんだ・・・?」
「えっ? だって、ご自身でよく言ってるじゃないですか?
好きって気持ち?『なんだ、それ?』って」
「・・・・・」
そんな会話を交わしていると、「おっはよう~」と、副店長の木下が入ってきた。
「俺さ、昨日、やべぇもん見たかも」と、早く言いたそうな口調でふたりに話しかけてくる。
「なんですか?」と、興味はないが、事務の女子社員は一応聞いてみるフリをした。
「店長と不倫相手」
「えっ!?
店長の不倫相手を見たんですか?!」と、さっきまでの態度とは裏腹に事務の女子社員はその話に食いついた。
「いや、可能性だよ、可能性。
あくまでもそうなんじゃないかっていうさ」
「なんだ・・・」と、また興味をなくす女子事務員。
「昨晩さ、同窓会があってさ、駅の近くにあるホテルに行ったの。
そしたらさ、ホテルのラウンジで、店長が少し白髪交じりの、そうだなー、見た目50前後ぐらいかなー? めっちゃダンディーなイケおやじと真剣な顔して話してんだよ」
「それだけでどうして不倫相手って分かるんですか?」と、疑問の女子事務員。
「だって、店長さ、そのイケおやじとめっちゃ怖そうな? 真剣そうな? 顔つきで話し込んでてさ、店長と目が合ったから、俺から声を掛けに行こうとしたら、店長がヤバイって顔をして俺のことを無視したんだもん」
「・・・・・」
木下の話を聞いた倫平は、眞央が自分とのセフレの関係を突然終わらせたのは、やはり不倫相手とよりを戻したからなのだと推測した。
「絶対、なにかあるよ、あれ」と、木下は自分の推理に自慢の眼差しを浮かべた。
「そう言えば、店長、東京出張を終えてから、少し雰囲気が変わりましたよね。
なんか、翳が出来たというか、顔つきがキツくなったって言うか・・・また禁煙したり」
「そうそう。
言われたんだよ、不倫相手に『また、禁煙して』って」
「ヤダ、私と同じ考え・・・」
倫平はこんな会話をこれ以上は聞きたくないと思い、そっとその場から離れた。
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