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最終夜
夜―。
『BSC』の星ノ空支店から帰宅した倫平は、帰宅途中に立ち寄った文具店で購入した白無地の封筒とビジネス用の便箋を机の上に並べた。
そして、スマホを手に取ると、ブラウザのアプリを起動させ、『退職届 書き方』と検索ワードを打ち込む。
《店長にあんな酷いことをしておいて、何もなかった顔してこれからも働き続けるなんて、そんな面の皮が厚い真似出来るわけがない・・・。
てか、こんな気持ちで一緒に働くのは俺がもう限界だ・・・》
倫平はつい先ほどあった出来事を思い返した。
『BSC』星ノ空支店の応接室で、倫平は必死で溢れ来る涙を堪えて、隣にいる眞央に自分の思いをぶつけた。
「俺じゃダメですか?」
倫平は眞央の返答を待った。
「・・・ごめん」
その返答に倫平は表情を落とした。
「・・・あの人は、奥さんときちんと別れたんですか?」
「えっ?」
「あの人とよりを戻したんでしょ?」
「あっ・・・うん・・・」
「奥さんより眞央を選んだんだ?」
「・・・うん・・・」
眞央はうつむき加減でどことなく歯切れ悪い。
「・・・わかりました」
「・・・・・」
「幸せにしてもらうんですよ」
「えっ?」
「俺が言うのもなんですけど、今度はちゃんと相手のことを大切にしてあげてくださいよ。
間違っても、またセフレとか作っちゃダメですよ」
「・・・・・」
「じゃないと、しっぺ返しが来ちゃいますよ」
倫平は精いっぱい微笑んだ。
なぜか、眞央は表情を曇らせたままだった。
「俺、無茶しちゃいましたけど、一人で帰れますか?」
「・・・ああ、うん・・・」
倫平は眞央の手首を縛っていたネクタイを解いた。
「それじゃあ」
「うん・・・」
眞央は最後まで表情を曇らせたままだった。
倫平はソファから立ち上がると、一切、振り向くことなく部屋を出て行った。
倫平はまた涙が溢れてきた。
《まさか、26にもなってこんなに泣き明かすなんて思ってもなかった・・・。
今までの元カノ達には酷いことしてたんだな・・・。
もっと大切にしておいてあげたら良かったな・・・。
人を大切にしなきゃいけないことをちゃんと学んでいたら、店長を傷つけるようなことは絶対にしなかった。
そんな生き方しかして来なかった俺へのしっぺ返しなんだろうな、これは・・・》
そんな思いを巡らせながら、倫平は退職届を書き上げた。
そして、眞央にスマホでメッセージを送信した。
『今日は大変失礼なことをしてすみませんでした。
今も反省しております。
店長に折り入ってお話があります。
お手数ですが、明日、少し早めに出社して頂いて、お時間を作って頂けないでしょうか。
よろしくお願いします》
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