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世間ではよくある失恋話だと思う。
けれど、眞央にとっては、たかが失恋で終わらなかった。
眞央は自分がゲイであることを呪ってしまった。
自分がゲイでなければ、あの恋は失われなかったかもしれない。
そう考えることでしか、あの頃の眞央は前を向くことが出来なかったのだ。
悪いのは、自分でも相手でもなく、生まれ持った自分のアイデンティティが全て悪かったのだと。
それを憎むことでしか失恋の日々を乗り越えることが出来なかった。
そんな日々を乗り越えた眞央は改めて倫平のことを思う。
倫平はただのセフレ。
しかもノンケだ。
これ以上、先がない片思いはない。
いくら思いを寄せても実ることは決してない。
この先、このままセフレという関係を続けていけば、自分の思いはこれ以上にもっともっと膨らんでいく。
その時、倫平に恋人が出来た時、自分は笑って別れられるだろうか?
倫平の生涯のパートナー《結婚》が決まったとき、自分は心の底から祝福することが出来るだろうか?
眞央はゲイとして生まれてきたことを呪った。
呪ったからこそ恋はしないと誓った。
なのに、また実らない恋をしてしまった。
自分は本当に成長しない人間だなと自分で自分を嘲笑う。
眞央に残された方法はまた誓いを守るしかない。
それが自分を守る唯一の方法だと過去から学んだのだから。
泣いて暮らす日々などもうたくさんだ。
眞央は心に決めた。
倫平への想いがもっともっと膨らむ前に、ここで終わらせる。
まだ、この小さい思いのままのうちに終わらせる。
そうしないと、辛くなるのは自分だ。
眞央は一息つこうと、タバコの紙箱を上着のポケットから取り出した。
タバコの紙箱のパッケージ。
倫平が愛用しているタバコと同じ銘柄。
倫平の声が頭の中で響く。
「俺と同じ銘柄でしょ?」
眞央の瞳から自然と涙が溢れてきた。
「そっか・・・。
バカだな・・・。
本当に全然成長してないじゃん・・・」
そう呟くと、涙が止めどなく溢れだしてきた。
眞央は思わずハンドルを握ると、止まらない涙をいつまでも流し続けた。
《あいつにタバコを勧められた、あの時から、もうあいつに恋してたんだ。
きっと、あいつと話す機会がもっと欲しくなって、タバコをまた吸い始めてたんだ。
セックスの誘いに乗ったのもオレがただしたかったんだ。
抱かれて感じまくったのもオレがもうあいつのことを好きだったせいだ。
あいつが風俗に行って腹正しかったのもただの焼きもち。
あいつにセフレの束縛をされて嬉しいと思ったのもあいつのことがもう大好きになってたからだ。
・・・なんで、もっと早くに気づけなかったんだろう。
もっと早く気づけてたら、こんなに涙が止まらなくなるくらい好きになんてなってなかったのに。
・・・いや、違う。
本当は気づきたくなかったんだ。
気づいたら、あいつとお別れしなきゃいけなくなるって分かってたから・・・》
眞央はそう気づくと、思う存分涙を流し続けた。
ようやく涙が収まりかけた頃、手の中にあったタバコの紙箱を、倫平への想いを終わらせるようにグシャッと握りつぶした。
(第五夜へ)
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