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第5話

 玲が意識を取り戻した時、僑の姿は既に無かった。 「お気がつかれましたか?」  ぐったりと褥に横たわる玲を珪が心配そうにみおろしていた。 「僑は?」 「暁宮にお帰りになりました」 「そうか...」  身を起こそうとしたが、身体に全く力が入らない。それどころか、少し身動ぎをしただけでも、節々がひどく痛み、軋んだ。殊に下半身は鉛にでもなってしまったかのように重い。 ―いったいどうしたというんだ.....―  信じられぬほどに乱れた褥、薄物の下に横たわる自分の身体が一糸纏わぬ全裸であることに気付き玲はひどく狼狽した。昨夜の事を思い出そうにも頭が激しく痛み、視界すら定まらない。  這いずるようにして寝台の縁に寄り、紫檀の枠に手を掛けて、凭れ掛かる。その両の脚の間から、生暖かいものが股を伝い滴り落ちた。 「珪.....?」  玲は戸惑い、伏せられた珪の面に問い掛けた。 「太主さまは.....閨月の障りをお迎えになったのです。.....僑太子さまは、ご自身で玲さまをお慰めすると仰せになって....」 「慰める.....とは、我れは僑と褥を共にしたというのか?」 「はい.....」  呻くように珪は息を吐いた。  玲は衝撃に言葉を失った。と同時に朧な意識のなかで見た僑の姿が甦ってきた。  半ば悪夢のようなその記憶のなかで、玲は幾度となく僑と、弟と唇を重ねた。もどかしげに裙の紐を解く僑の頭を掻き抱き、強い赤毛の髪に指を絡めた。男の熱をもった指が肌をまさぐる度に小さく身を震わせて、内奥から湧き出でる小波に揺らめいた。首筋を、胸を吸い上げる唇のぽってりとした柔らかさ、触れられるそこここから熱が湧き、身体全体に広がり、玲を戦慄かせた。  そして、僑の男らしい太い指に若茎を包まれ、扱きたてられ、果てた。  指についた玲の白濁を厚みのある舌がゆっくりと舐め取り、欲情を湛えた瞳が薄闇の中で幽かに揺れていた。躊躇いがちに玲の秘奥をまさぐる指に翻弄され、身悶えあられもない声を上げた。  幾度となく襲い来る快感の波に呑まれ、その逞しい背に縋りつき、喘ぎ啼いた。後孔に男のものを、僑の雄を迎え入れ、擦りたてられ、突き上げられ、女のように咽び、よがり泣いて昇りつめた。手足を絡め、ぴたりと肌を重ね合わせて、幾度となく達した。 「我れはなんという事をしてしまったのだ.....」  絞り出すように、掠れた声で呟く玲の肩を珪はそっと撫でた。 「閨月......にごさいますから」  珪は、僑太子が己のが兄を組み敷き、掻き抱き、穿ちながら、―玲、愛してる―と囁き続け、所構わず口づけて咽び泣く姿を切なく見守っているほかは無かった。  許されぬ、叶うはずの無い恋に身を焦がす少年の憐れな姿に胸が痛くなった。 「どうか、僑太子をお責めくださいますな....」  僑が持参した菓子には媚薬が練り込まれていた。ほんの一欠片、毒味をした珪にはすぐにわかった。けれど、少年の縋るような眼差しに口を閉じたのだ。  何者かの奸計によって『姚月』となった玲は何処かに嫁がされ、国を逐われる宿命(さだめ)。その後を継ぐ僑はいずれ王として国を治めねばならない。その無事とて保証されている訳ではない。  その心に、その身体に自分を刻みたいと絶望する少年の願いを誰が責められようか。 「泣いていた.....」  しばしの沈黙の後、玲がぽつりと言った。 「え?」 「僑は、泣いていた.....」 「玲.....太主さま?」  翆玉の瞳がふと上げられた。雨が降り始めていた。窓辺に揺れる山梔子の花の白さが痛かった。

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