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第7話
僑は、あの日以来、度々、玲の閨を訪れた。
最初に手籠同然に玲を抱いてから、はや一月が経とうとしていた。
あの事があって後、十日ほどは顔を出さなかったの。事の次第を知った茱妃に問い詰められ、―兄上をお咎めになるなら、我れは自死する―と騒ぎたて、寧王の耳に入り許諾を得るまで、僑自身も自ら謹慎を申し出ていたからだ。
―よう茱妃どのが許したものだ.....―
首筋に顔を埋める若い雄の頭を撫でながら、玲は低く呟いた。僑の弟、茱妃の産んだ二人目の王子はまだ三才に満たない。病弱な寧王に子供は無いから、王太子の僑に万一があれば、王位を継ぐものはいなくなる。しぶしぶと容認せざるを得なかったのは、僑が半狂乱で寧王に訴えたからだ。
―兄上を妃にしたい―
という懇願はさすがに却下されたが、閨を共にすることは許された。
―もう、あのような酷いことは致しませぬゆえ.....―
地面に額を擦り付けて涙ながらに詫びる僑に、玲は言葉が無かった。
―我れは、兄上の側にいたいのです。ああでもせねば、会わせてもいただけぬ―
―そのような...―
―我れは兄上に憎まれても良い。でも兄上が好きなのです。他の者になど触れさせくない...―
若い日の劣情など、はしかのようなもの。いずれ落ち着きましょう―という珪の言葉に仕方なく僑の訪いを許さざるを得なかった。
―いずれ嫁ぐなれば、玲さまも閨事に慣れておかれた方が良い―
方士の白恣も薬湯を処方するばかりでなく、閨事の助言を為すこともあった。女性との交合い以上に『姚月』の交合はその身体に負担をかけること、後の処置を気遣わねばならぬこと.....。
―何ゆえに方士どのはそのようにお詳しいのか?―
珪が問うても、玲が尋ねても、白恣は言葉を濁すばかりだった。
「兄上、お辛くはないですか.....」
玲の内に自らの雄を深く埋めながら、僑は仄かに紅く色づいた玲の胸元の突起を指先にやんわりと包んだ。
「大丈夫だ.....」
玲は短く答え、そっと眼を閉じた。玲を抱く僑の眼にはいつも哀しげな色が浮かんでいた。実の兄を組み敷く罪の意識なのか、決して自分のものにはならない事に対する絶望なのかはわからなかったが、玲はその眼を見るのが苦しかった。
「膨らみも無い胸に触れて楽しいのか?」
と怪訝そうに玲が問うと、決まって僑は淋しげに笑った。
「兄上の肌からは懐かしい匂いがします。小さな胸乳でも、私には母のそれよりも心が休まるのです...」
「変なやつだ.....」
玲が眉をひそめると、わざと口に含み強く吸い上げて玲を戦慄かせる。ささやかな抗議なのだろう。一層に深く腰を突き入れて、玲の腰を揺すぶり、甘い声で耳許で囁くのだ。
「愛してるのです.....兄上。誰よりも兄上が好き」
快感のうねりに喘ぎ咽び啼く玲を押し包む弟の肌からは紛れもない牡の匂いがしていた。
玲は幾度も弟の腹に白濁を散らし、やがて意識を手放す。その腕の日々頼もしくなるのを実感しながら、一層悲しくなる。
―いつまでも、こんな事をしていてはいけない.....―
誰よりも僑のためにならない。僑が立派に王位を継いでくれるなら、その妨げになるようなことはしたくなかった。
―我れはもはやここに居るべきでは無い......―
これ以上、僑も自分自身も堕ちるわけにはいかない。父を亡くしたあの日、母親も宰相も振り切って、玲の願いを叶えてくれた。その慈愛に報いたかった。僑の未来だけは守ってやりたかった。
「我れの嫁ぐ先を決めてくださいませ」
玲が朔宮を訪れた寧王に願い出たのは、秋の風が吹き始めた頃だった。
寧王は微かに動揺を見せたが、玲の落ち着いた、きっぱりとした声音に静かに頷いた。
「よくぞ決心なされました.....」
数日のうちに寧王は長い手紙をしたため、崔将軍に託した。
―上手くいくとよいが.....―
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