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穴埋願望【3】
「いやマジで何言ってんだ、何でも埋めさせねぇ──ってか、ちょ、も、それやめ」
コンドームを被った指3本が中を前後するたび、腰がひくりと蠢いて手足が揺れる。
何だかおかしい。気持ち悪いのに、何か別の感覚が混ざり始めてる気がする。
まさか自分が尻穴なんかで感じてるとは思えない、思いたくないけど、実は結構イイもんだって話には聞いたりするし。
じゃあ、やっぱりこれって感じてんのか?
いやいや、のんきに納得してる場合じゃねぇぞ──俺。
狼狽える田端の足首のネクタイを、後輩の片手が左右纏めて掴んで押し上げる。指を呑み込む穴が隠しようもなく明かりの下に曝され、愛おしげに見つめるクソ変態が緩急をつけて丁寧に出し入れを繰り返す。
「は、あ、んん……やめ」
「ねぇ田端さん、もしかして感じてます?」
「ンな、わけ──変態はお前ひとりで十分だっ」
「でも気持ちよさげだし、ちょっと勃ってきてますよ?」
またまたそんなご冗談を。そう笑い飛ばしてやりたいのに、あながち全面否定できない自分がいるのも事実だ。
だから聞こえなかったフリをしてスルーしていたら、上野はようやく指を引き抜いてポリウレタンを剥がした。
「じゃあ少し早いかもしれませんけど、巻きでいくって約束しましたからね」
そんな約束を受け入れたつもりはねぇ、なんて反論する間もなく、ド変態は至極当然ってツラで次のアイテムを掲げてみせた。
ソイツを見て凍り付く田端に、その笑顔であらゆる女を引っかけ得る後輩は事もなげにわざわざ紹介してくれた。
「さっき買ったサラミです」
「な──」
サラミと言っても、カルパスみたいなヤツじゃなければ、スライスされたヤツでもない。直径3センチ以上、長さ20センチくらいある、ビールのお供に買ってきたはずのサラミソーセージだ。
「お前は馬鹿なのか!?」
「いえ、ただのクソ変態です」
「自称するな……!」
「認めろって常日頃から諭してるのは田端さんですよね」
「てか食いもんをンな遊びに使うんじゃねぇ!」
「大丈夫、ちゃんとあとで食べますよ」
耳を疑った。
「食う──?」
「だってゴム被せますし。普段のセックスでもゴム取ったあと口に入れたりもしますよね?」
「いや上野、お前が何言ってんのか俺にはわかんねぇ」
「だから。だったら、田端さんの穴に入れたあと、ゴム取ってサラミ食ったって別に良くないですか?」
コイツはクソ変態の上をいくぞ──田端は気が遠くなるのを感じた。
比類なき変態だとは知ってたけど、まさかここまで極めてるとは思ってなかった。
「いいわけねぇ! ぜってぇ食わねぇそんなモン!!」
「いいですよ、俺が独り占めしますから。田端さんのこの」
と、甘く弛緩した眼差しがどこに注がれてるのかは、この際考えまい。
「最高の穴を埋めたサラミを食うなんて、考えただけで興奮しますね」
神様──
「あ、今度はラテックスにします?」
もう何も答える気が起きなくてスルーしていたら、上野は勝手にどっちだかを選び、パッケージから出したサラミに手早くコンドームを被せて田端の穴に宛がった。
「ッ、いや、ダメだ! そんなモン埋められてたまるか!」
「え、今さら? そんなこと言わず、試しにちょっと入れさせてくださいよ」
「これは試しにちょっととかいうレベルじゃね、あっ! ダメだって……!」
マニアの欲望ってのは恐ろしい。
そりゃあ制止されたって聞かないくらいじゃないとマニアを名乗る資格はないのかもしれないし、その執着あっての変態の称号だ。
だけどそれはあくまで傍観者として理解できる理屈であって、我が身に降りかかるとなれば呑気にしてられるわけがない。
どんなにみっともなかろうが気にしてられないとばかりに、不自由な両手足を聞き分けのない子供みたいにバタつかせて暴れたら、もう田端さん! と辟易したように窘めた上野が、片腕で田端の両膝裏に体重をかけて見事に抵抗を封じてしまった。
そうする一方で穴にセットし直したサラミの端を、今度は容赦なく押し込んでくる。
「この──変態がぁっ!」
「ありがたきお言葉」
冗談じゃなくマジで罵ったんだからな今!! と念を押す間もなく直径3センチ強の肉棒で貫かれ、田端はノドを反らして胸を喘がせた。その上に降りかかる、変態の弾んだ声。
「すごいですよ、田端さんの穴。あんなに小さかったのに、こんなに広がってサラミがぴったり埋まってます」
「見てんじゃね、てか実況すんなクソ変態っ!」
「中はどんな感じですか? やっぱりキツイ?」
「当たり前……てかっ、んな奥まで入れんじゃねぇ!」
「だってまだ入るし、穴もまだ続いてるんですもん」
穴が続いてんのは当たり前だ、どっかで行き止まりになってるわけがねぇ、そう言ってやりたいけど余裕がない。
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