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第18話

自宅へ戻るなり玄関で服を脱ぎ始めた汐月は、急いで浴室に入って手早くシャワーを浴びた。 風呂に入る前にエアコンはつけておいたが、短時間であがったせいで熱気の籠った部屋は涼しさが追いつかず蒸し暑いままだ。 「あっつい!」 濡れた髪をバスタオルで雑に拭きながら室内を動き回り、衣服を身につけながら出勤の準備をした。 「よし、忘れもんないな」 もう余り時間はない。玄関に向かう前に洗濯機の中にタオルを投げ入れたが、不意に室内を振り向いた。 職場から徒歩で通える距離にある、1LDK。浴室とトイレは別。新築ではないけれど、築浅の物件だ。 駅からも徒歩圏内のせいでかなり人気のこの物件は、空き部屋が出た時点ですぐに入居しなければすぐに埋まってしまう。汐月が不動産屋を訪れた時、まさにそのタイミングだった。 運命的なものを感じた事もあって即契約したのだが、本当に気に入っている。 「...いってきまーす」 誰もいない部屋に挨拶を残して扉を閉めると、鍵をかけた。 階段を降りる時にはもう暑さで目眩がしそうだった。 マンションの敷地内にある木々からは蝉の鳴き声が朝から元気に聞こえてくる。 (同棲.....そんなん...あかんわ...) ここに来るまでに恋人と言う相手ができたこともあるし、長く続いた遊び相手もいる。どれだけ気を使わずに時間を過ごせる相手でも、生活を共にすることだけは避けてきた。 ゆっくりと通り過ぎてきた時間のお陰で、渡への感情はただの記憶になりつつある。だが、夢見ていた二人の生活を砕かれたあの痛みはまだ完全には消えていない。 (...女々しいわ。ほんまに) 渡本人には、もう過去の話だと偉そうに告げたくせに、実の所ダメージは引き摺っている。 (でも、これは結生がとかやないねん。この先も生きていくんやから、自分でどないかせなあかん) 冷静な頭の中では理解しているし、丈晃となら一緒に暮らしたい。 互いの部屋を泊まり合う現状とさほど変わらないはずなのに、何故こんなにも気乗りしないのか。 (わからん...) いつも通りの業務をこなしていても、手が空くとつい考え込んでしまう。 何度か店長に体調が悪いのかと声をかけられたが、大丈夫だと返事をした。 「おはようございます。元宮さんっ!聞いてくださいよ」 騒がしく店内のフロアに入ってきたのは仲だった。 「んも〜。来るなり喧しいなぁ」 本の陳列をしていた汐月が背中を向けると、後ろから抱きつかれた。 「暑苦しいからやめてや」 「昨日の夜から何度も連絡してるのに、玲さんが返事くれなくて。映画行く約束してたのに酷くないっすか?」 「.....映画。それほんまに約束してたん?」 真面目な有坂がしていた約束を反故にして風俗に行くだろうか。 「え、いや。はっきりではないですけど、でも行く気になったらって言って行かないってなった事ないし」 風俗で童貞を捨てるのに忙しかったらしいよ。なんて、職場でなくても勝手に話すわけには行かないだろう。 「.....結構仲良くしてるんやな」 彼の顔は見ずに作業をしながら返事をしたのだが、仲はかなり勘がいい。 「.......元宮さん、もしかして昨日、玲さんと一緒だった?」 「え?ちゃうけど?」 背中を向けているが、今顔を見られたら嘘を見破られてしまう気がする。 「ふぅん...」 「なんやの、仲くんえらい玲くんに執着するやんか。最近腕に女の子ぶら下げてへんし、もしかして玲くんに惚れたん?」 話題を変えたくて適当に言うと、返事が返ってこなくなった。ハードカバーの本を手に振り向くと、時間が止まったように仲が立ち尽くしている。 「...どないかした?」 「俺...そう言えば最近女の子と遊んでないな...」 「やっぱり?前はさ〜、仕事終わったら外で三人くらい待ってたやん。香水キツいし、前通るだけでしんどかったんよな」 「あ〜、それはすみません...」 予想外の反応が返ってきて驚いた汐月は、やはりそこから動かない仲を前に戸惑ってしまった。 「...な、仲くん、大丈夫?」 さっきまで自分が店長に向けられた心配を彼に告げてみたが、やはり反応が鈍い。 「お〜い、仲くん。ちょっと向こうのダン箱片付けるの手伝ってくれるかい」 店長に呼ばれてやっと動いた彼は、返事をして行ってしまった。 (なんやあの反応...) 今までならば彼の遊び相手の女の子達の文句を言うと、彼女達がいかに癒しを与えてくれるのかを語っていたのだが。 もしかしたら、同性とのセックスを汐月と体験したせいで女の子が苦手になったとか。 (いやいや、あらへんわ〜。仲くんはおっぱい大好きやしな) 自分で思い浮かべた言葉なのに、連想してしまった。丈晃が昨夜台所で囁いた「おっぱい」と言う言葉を。 彼も男は汐月が初めてだ。お前だから勃起するんだ。なんて、馬鹿みたいな台詞をピロートークにしていた気がする。 仲にしても丈晃にしても、ゲイという訳では無い。ならば、バイなのだろうか。 考えても詮無い事なのだが、女性に対して性欲をもてない汐月からすると、気になるポイントだ。 「元宮くん、もう時間だよ」 黙々と作業していたお陰で、あっという間にあがりの時間になっていた。 バックヤードで帰り支度をした汐月は、店を出る前に他のバイトと作業をする仲の様子を覗いた。 会話をして笑いながら働く彼の姿は、いつもと何も変わらない。 (...気にし過ぎかな) 声をかけずに外へと出ると、スーパーの袋を手に提げた丈晃がいた。 「お疲れ様」 顎髭のない彼の迎えは初めてで、何故か少し胸がときめいた。 「...来てたんや」 「朝に何も約束してなかったしな。飯作ってやるから今夜はお前ん家でいいか?」 週末の二日間が休みの彼は、明日の朝には味噌汁を作ってくれるのかもしれない。 「明日も休みなん、ええなぁ。オレは次の休みは火曜かな」 「平日の休みも羨ましいけどな」 「出かけるにはええけどな。映画に行っても空いてるし」 「だろ?まぁ、休みが重なりにくいのは淋しいけどな」 さらりと言ってしまえる彼は男前だと思う。そして、それだけで照れてしまう自分は、脳内が乙女過ぎる。ちょっと我ながらおかしいと思うのだが、こればかりはどうにもならない。 「あ!そうや。玲くんはどないしたん?」 「どうしたって?朝飯食って帰ったけど」 「なんかな、仲くんが玲くんと連絡取れへんて騒いでて。昨日一緒におったんかて言われてんけど、さすがに風俗行ってたとか勝手に言われへんし、知らんよってゆーといてん」 「あ〜。それはまぁ、話せる内容じゃねぇよな」 もう汐月のマンションの近くまで歩いて来ていたが、人通りがなくなったせいか丈晃がさり気なく汐月の手を握り締めてきた。 驚いてしまった動揺が伝わってしまったようで、彼は笑いながら「ビビんなよ」と楽しそうに言った。 「ビビってへんし。それより、玲くんの事は口裏合わしといてや」 「合わすも何も、俺があのチャラいくんと話す事はそうねぇよ」 「いや、そうやけど。でも、玲くんと頻繁に遊んでるみたいやし。念の為やん」 マンションの鍵を開けて玄関に入ると、名前を呼ばれた。 早くエアコンをつけたくて返事をしつつも室内へ足を踏み入れると、後ろから手を掴まれて引き戻された。 先に触れたのは唇で、キスが深くなってから抱き締められた。 「...抱きてぇ」 玄関に入るまでは全くそんな素振りなど見せなかったのに、彼の吐息は熱く湿っている。 「嫌か?」 「ええけど...。エアコンはつけさしてや」 わかったと返事をした彼は、汐月を解放した。 彼の様子からして、シャワーは浴びさせてくれないだろう。 とりあえず気の済むようにさせてからだな。と諦めた汐月は、エアコンのリモコンを操作して設定温度を低くすると、ベッドに向かいながら服を脱ぎ落とした。 ベッドの上には既に下着だけの丈晃がいて、どれだけ早くしたいんだと少し呆れたが、結局は汐月も同じだ。 呆れながらも、求められることが嬉しい。 取られた手を引かれて倒れ込むようにベッドに横になると、大好きな彼の重みに満たされた。 触れる肌は互いの汗でしっとりとしていて、濡れた肌を感じるだけで興奮してしまう。 求められたキスに答えていたが、被さる彼の股間へと手を伸ばした。下着越しでも熱いそこは既に固く勃ちあがっていて、手のひらを擦りつけるように撫でてやると耳の中に舌が這わされた。 「は...っ、あ、」 「汐月...触り方がすげぇエロい」 「.....当たり前や、オレも男やからな...」 丈晃の下から逃れて起き上がり、仰向けになった彼の腰を跨いで見下ろした。 「.....ガッチガチや...」 汐月自身も下着の中でもう興奮していて、それを彼のペニスに擦り付けるように腰を揺らした。 「.....っ、やべぇ。早く挿れてぇ...」 「歳の割に若いんちゃう?まぁ、あれだけエロい小説ばっかり読んでるんやから当たり前か」 「官能小説は芸術作品だぞ」 話しながら汐月の股間に触れようとした手を掴んで止めた。 腰を浮かせて下着をずらし、丈晃の腰の上で勃起したペニスを出した。手のひらで包んでゆるゆると擦る姿を見せつけながら、尻の割れ目で丈晃のペニスを擦ってやると、下から腰を押し付けてきた。 「...どんな小説よりお前の方がエロい...」 その言葉は汐月にとって何よりも嬉しい賛辞だ。 彼は汐月を凝視しながら、足を撫でてきた。徐々にあがる興奮の熱で、彼の瞳が獰猛な色を含んでいく様子に満たされていく。 汐月は手を伸ばして潤滑剤で指を濡らすと、後ろ手に下着の中へと入れて彼を迎える場所に指を沈ませた。 「...っん...」 「自分でやるのか?」 「...はよせんと...シャワー行かしてくれへんやん...」 「はは、そうだな。とりあえず一発やんねぇと、おさまらねぇんだよ」 柔らかく解れてきた所で、彼の下着を脱がしてやった。 「やべぇ。俺が抱かれるみてぇだな」 「似たようなもんやろ」 尻に押し当てただけで先端が飲み込まれていく。 汐月の粘膜で包む事を考えると、彼のペニスは汐月に抱かれているという事にもなるのだろう。 「...ん、あ、おっき、ぃ...」 「あ〜、やめろ。あんまりエロい事言わんでくれ。出ちまいそうだ」 間抜けな声と台詞を下から投げられ、不覚にも笑ってしまった。 「バカ、お前っ。笑うと締まる...っ」 「アンタが笑かすからやろ」 笑いを堪えようとしていた所を、腰を掴まれて引き落とされてしまった。 覚悟をしていない時に無理矢理押し込められ、 内臓に圧力がかり息が出来なかった。 「...ま、ってや、っ」 衝撃で震える指を彼の腹につけたが、腰を掴んだ手は離れず、下から激しく突き上げられた。 「あっ!ま、ちぃ、やぁっ、あ、あぁっ!」 「今、アンタって呼んだな?ペナルティはなんだった?汐月」 激しい揺さぶりに視界が安定しない。 敏感な粘膜は擦られる箇所から快感を全て拾い上げて、思考を奪っていた。 「あっ、んっ、ちゅ、ちゅぅ...っ、」 「べろちゅーだろ。ほら、早くしてくんねぇと」 大きな突き上げは僅かにゆるめられたが、小刻みに揺さぶられたままだ。 汐月は上半身を倒して彼に密着すると、舌を伸ばしてキスをした。 「ん、んん、た、たけあ、きぃ、あっ、き、もちいい、」 「気持ちいいか?この辺擦られるの好きだよな」 逞しいペニスの括れが、粘膜を引っ掛けて強く刺激してくる。 「あっ、いい、い、も、もうイっちゃ、う」 「それは流石に早いだろ。もう少し我慢しろ」 ぐちゅぐちゅと突いていた動きが、丈晃の手でグラインドするように横にも動かされてしまい、ペニスが粘膜を擦る音が聞こえそうだ。 「や、嫌や、たけちゃ、たけちゃん、出てまうぅ、」 「.....汐月、お前...っ」 「あっ、き、気持ちいいから、無理ぃ、たけちゃん、たけちゃん、ちゅうして、あっ、んんっ」 汐月は自分から丈晃の唇に吸い付くと、そのまま彼の腹の上に射精した。

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