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第24話
ストレスを発散しに行ったはずなのに、飲みに行った先でストレスを溜めてしまい、寝起きから絶好調に苛々する一日のスタートを切った。
昨夜は仲の話をだらだらと聞くのも億劫になり、早々に解散して帰宅したのだが、携帯は一度も彼からの着信を伝えなかった。
(なんやねん。毎晩鬱陶しいくらいマメに電話してきてたくせに、昨日は不動産屋と話が弾んでたんか?ほんま!なんやねん!)
本の並びを変える為に腰を曲げて作業していのだが、原動力が怒りのせいか辛さも感じなかった。
「元宮くーん」
「あ、はい」
店長に手招きされ、作業を中断してレジカウンターまで向かうと、卓上カレンダーを眺めていた。
「ちょっと遅くなったけど夏休みも終わるし、纏めて休んでも大丈夫だけどどうする?」
「あ〜、どうしよかな…」
毎年世間の休みが終わる頃に、遅れた盆休みを貰っている。気ままに過ごせる連休は毎年楽しみなのだが、今年は丈晃がいる。
「時期とか店長の中で決まってます?」
「いや、いつでも構わないよ。元宮くんにはいつも無理きいてもらってるからね。ご実家に帰るならそっちの都合に合わせてとってもらっていいから、遠慮しないで言って」
いつ頃にするかはとりあえず保留にして、丈晃に話してみようかと考えた。
実家には帰りたくない。少し前に姉の美月が来て、アレコレと騒がしくされた所だ。
とは言え、その切っ掛けがあったお陰で丈晃と気持ちを確認し合う事が出来たのも確かだが。
姉からは何度かメールが来ていたが、まだ返事は出来ていなかった。
長年隠し続けてきた性癖を姉に知られた動揺は、簡単には消えない。
(おとんやおかんになんか、今は顔合わせられへん)
家族の事を考えていたせいで苛立ちは収まってきたが、怒りと憂鬱とどちらがいいかは分からない。
それでも脳内が忙しいと手元はリズム良く動くもので、仕事自体は問題なくこなせた。
退勤時間間際、ポケットの中の携帯をチェックしてみたが、丈晃からの連絡は入っていなかった。
椎名はおそらく、バーで汐月に会ったことを話しているだろう。そして、汐月が仲と二人だったことも。
もしかして、それを聞いて怒ったりしているのだろうか。
確かに過去に一度寝たことはあるが、それは丈晃と再会する前の事だし、そもそも自分から誘った訳でもない。
一人で言い訳をしていても意味が無いのに。と、無駄な労力を使って疲れてしまった汐月は、職場を後にした。
帰り道にある弁当屋で唐揚げ弁当を一つ買い、そのまま自宅へと帰った。
丈晃はいつ定時に上がれるようになるのだろう。
以前のように汐月の仕事上がりに合流して、帰り道にスーパーで買い物をしていた日々は、戻ってくるのだろうか。
彼がいないと単純に淋しい。
唐揚げ弁当が転がらないように気をつけながら鞄から鍵を出すと、落ち込み出した気持ちと共に鍵を開けて中に入った。
玄関に入るなり、身体に何かがぶつかってきた。驚いた汐月の手から弁当の入った袋が滑り落ち、台無しになった音がする。
驚きはしたが、汐月も腕を伸ばして暗い玄関の中で彼を抱き締めた。
「おかえり、汐月」
「…ただいま…」
「なんだ、驚かせようと思って真っ暗な中待ってたのに」
「ビックリしたわ。したけど…、匂いですぐわかるもん」
数日ぶりの彼の匂いを嗅ぐと、自分がどれだけ彼に飢えていたのかを再確認出来た。密着する彼の胸元に鼻を擦りつけて息を吸い込んでいると、顎を掴まれて上を向かされた。
すぐに唇に噛みつかれ、勢いがあったせいで彼の歯が唇に当たって痛みが走ったが、それすらも嬉しい。
肉厚な舌が汐月の舌を絡めとり、咀嚼されそうな強さで吸われた。
「…っふ、ん…ぅ」
彼が居なくて淋しかった。彼の香りに包まれてキスをしたかった。話す余裕もないほど欲していた自分に驚くと同時に、放置されていた時間が辛かったと痛感した。
情熱的なキスを受けているのに、気を抜くと涙が滲んでしまいそうだ。
もっと。と、しっかりと抱き着いて舌を伸ばすと、器用な彼は汐月を抱き上げて室内へと歩き出した。
彼の長い足で数歩で辿り着いてしまうベッドは、特注品でもなんでもない。
よくあるホームセンターにあるありふれたものだ。だが、彼が一緒にいるだけで、特別な場所へと変化する。
一時も唇を離さないまま、汐月の靴が彼の手に脱がされた。
汐月はそれに応えるように唇を動かせ、自分の服を脱ぎ始めた。
既にエアコンはつけられていたおかげで、全裸になると涼しかった。
まだ脱ぎきれていない丈晃の服に汐月も手をかけて手伝うと、彼のペニスが手に触れた。
既に固く反り返る彼のペニスに嬉しくなってしまう。
(女の子でもこういうんは嬉しいと思うんかなぁ)
ぼんやりと考えながら彼のペニスを撫でていると、汐月のものに彼の手が触れてきた。
「…濡れてるぞ。期待汁か?」
親父臭いその台詞も、興奮した熱っぽい声音にぞくぞくとしてしまう。
唇が離れたところで体を起こした汐月は、ローションのボトルを丈晃の横に置いて、彼の上にかぶさった。自分から彼の顔を跨ぎ、上から固く熱を持つペニスに手を添えると、その獰猛な先端を口に含んだ。
「…っ、なに、サービスいいじゃねぇか」
彼も仕事帰りでそのままらしい。ペニスから香る濃厚な匂いでそれを知り、味わう様に舌を這わした。
汐月のペニスも下から伸びた丈晃の舌に愛撫され、ローションで濡れた指が挿し込まれた。
長い指は粘膜の敏感な部分を優しく擦り、先端の窪みに舌先が食い込んでくる。
「んんっ、ん、んぅん、」
「やっばい。汐月、えろ過ぎてちんこ痛てぇ…」
丈晃の先端は見事に膨らみ、張り詰めている。舌先に触れる感覚でもわかる状態に嬉しくなり、汐月は向きを変えた。
「もう挿れるのか?」
「…丈晃のちんちん破裂しそうで可哀想やし、ええよ」
本当は自分が待ちきれないからだ。汐月に欲情する彼の素直な性器を前にして、嬉しくてたまらない。
後ろ手に彼のペニスを支えて押し当てながら腰を下ろすと、さすがに少し窮屈で入りにくかった。
「…汐月、もう少しちゃんと拡げさせろよ」
「ええねん、そのまま…大人しくしといてや…」
先端が少し中に収まった所で小さく上下に尻を動かし、ローションの滑りを利用して奥へと飲み込んでいく。
「…あっ、ん、はぁ、っ」
「腰つきがえろ過ぎる…。なぁ、汐月、すっげぇエロいから俺もう出そう」
「やめ、てや、まだあかん…っ、明日も仕事やねんから、一回出したら終わりにするで…」
「……っ、いや、無理だって、無理」
ようやく根元まで収まったペニスの圧力を味わう様に緩く尻を横に揺らすと、汐月を見上げる丈晃が苦しそうに眉を寄せたのが見えた。
「なら、お前もイくなよ?」
優位にたった気分でいたのに、丈晃は足を広げていた汐月のペニスを掴むと急に擦り上げてきた。
「あっ、ちょ、やめぇやっ!」
「あれ?なんか半端なく濡れてねぇか?汐月、これもしかしてちょっとイったんじゃねぇ?」
「あほ、ちゃうわっ、ん、やめ、触るなて、あ、あっ、ぁんっ」
「は〜、やべぇ。マジで」
腹筋で起き上がった丈晃は、一瞬で体勢を入れ替えてしまった。
「あっ!待ちぃや、オレがやりたいのにっ」
「だから、マジでやべぇって。お前が可愛すぎてもう出ちまう」
ストレートに告げられただけなのに、胸がときめくなんてどうかしている。
とは言え、そのときめきと性感は直結してしまっているから誤魔化しようがない。
「あか、ん、イきそう、あ、あっ」
浅い場所を緩く突いてくるのは達してしまいそうだからだと分かっているが、その動きがピンポイントで敏感な場所を擦っていた。
「…俺も…ッ、イく…」
「ん!んんっ、ふ、あっ…!」
互いに息を詰めて暫くは動けず、丈晃が脱力して汐月を押し潰してきた。
「苦しっ」
「久々だったから、濃いのがすげぇ出ちまった。風呂で出すから許してくれな」
汐月の中からペニスを抜いた丈晃は、可愛いキスを汐月の髪にすると隣に寝転んで抱き締めてきた。
「暑いから離れてや」
「やり終わった途端それか」
「賢者タイムなんです〜」
そう言いつつ自分からも彼の身体に手を回すと、首筋を舐められた。
「もうせーへんで。明日は仕事」
「分かってるって」
「…もう、忙しいん終わったん?」
「全部じゃねぇけどな。ほぼ終わった感じだ。とりあえず今日は定時で上がってきた。お前に会えなくて限界だったしな」
「…や、やりたかったの間違いちゃうのん」
素直に嬉しかったのだが、咄嗟にそんな返事しか出来なかった。
「それもあるけど。昨日、湊さんからお前が浮気してるって聞いたから心配になってさ」
「…そ、そんなんしてへんしっ!」
やはり話したのかと思わず声を荒らげてしまったが、丈晃は笑いながら汐月の頭を撫でた。
「分かってるっての。チャラ男くんと飲んでたんだろ?それ聞いて、俺が居なくて淋しいんだろうなって思ったんだよ。…あとはまぁ、お前が贔屓にしてるケースケって男が俺の知ってる奴だって分かってビックリした」
「それはオレもビックリした!行ったら圭介さんとおるんやもん。あの人なんなん?」
「何って…。昔から顔の広い人でさ、色んな系統の友達が多いんだよな。ケースケさんは大学の中でも外でも有名な人で、湊さんと仲がいいのは知ってた。でも、俺は接点なかったしな。遠目で何度か見かけた程度」
丈晃も椎名と圭介の関係は仲がいい事くらいしか知らないようだ。
どちらにせよ、自分のお気に入りのものにことごとく関わってくる彼は、あまり好きじゃない。
「…ふぅん」
「……汐月、俺と湊さんの関係にヤキモチ焼いてんじゃねぇのか」
「別に。あんまり気ぃ合わへんタイプなだけやもん」
「ははは、お前は昔からそういうとこ素直だよなぁ」
怒ったような顔をしている汐月を見ても、可愛いと鼻を摘んでくる彼は優しい。
「なぁ、湊さんがいい感じのマンション見つけてくれてんだ。今度仕事上がりでいいからチラ見しに行かねぇか」
「…ん〜」
またあの男に会うのかと思うと少し憂鬱になり、気乗りしない返事をしてしまった。
「やっぱり早く一緒に住みてぇんだよ、俺。…お前に会えねぇのが、すげぇ辛いわ」
汐月の鼻先を指の腹で擽るように撫でながら告げた彼に、胸を撃ち抜かれてしまった。
「……し、しゃあないなぁ…。別にええけど」
「よっし!じゃあ、風呂に入るか。汐月の可愛い尻を綺麗にしねぇとな」
再び抱き上げられた汐月は丈晃の首にしがみついて運ばれた。
汐月より歳上のくせに、こういう所が可愛くて困る。椎名に会うのは不快だが、それも同棲する部屋を決めまでの話だ。
我慢、我慢。そう繰り返しつつ浴室に連れ込まれた汐月は、恋人の手で隅々まで綺麗に洗われた。
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