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第5話

「今日は聡と会うみたいだな」 「はい」  大門はきっちりとした様子で答えながら、シャツのボタンに指をかける。  広部部長の言った「聡」というのは彼の三男で、大門が高校時代に同級生だった、あの広部聡のことだった。 「そう畏まらなくて良いさ。明日は大門、非番だったな」  それは出勤、欠勤を確認する上司というよりはまるで、近所のおじさんとこれからの天気について話してくるようなのんびりとした口調だったが、大門は肯定すると、非番であることを詫びる。  すると、部長は噴き出したように笑った。 「部長?」 「いや、嫌味で言った訳じゃないさ。ただ、仕事ばかりの人生っていうのもな、と俺個人は思っている。家族や……君くらいの年なら愛する恋人を守る、そんな人生も良い。まぁ、刑事になる人生を否定している訳じゃないが」  部長は刑事巡査を志望している後輩の細田とは違い、その日、その日を愛する者の為に働ければ、それで良いじゃないかというような気構えの持ち主だった。 それは広部がこの交番の部長になるまでに年を重ねた故に生まれたものなのか、それとも、彼の元来の性格なのかは分かりかねるが、少なくとも、大門にはその態度には好感を持っていた。落ち着きがあり、また、毅然としていて、自分もそのようにありたいと感じていた。 「お先に失礼します」 「先輩、お疲れ様です」  広部部長と共に、畳の敷き詰められた休憩室からデスクのある部屋へ出て行くと、報告書のファイルを棚から出したばかりの細田が大門に頭を下げる。  広部との待ち合わせは駅の改札の前で、普段、通勤や日用品の買い出しといった移動には原付を使う大門だったが、今日の広部の誘いは2人で飲もうという話だったからだ。

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