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第9話
「突然、お邪魔しちゃって、ごめんね」
高屋の「覚えていないかも知れないけど」と続いた言葉を返すとすれば、大門は「勿論、覚えている」と返しただろう。しかしながら、口下手の気のある大門には「ああ」や「おお」というような曖昧な返し方しかできなかった。
ただ、そんな会話が満足に立ち行かない状態でも、「折角だから」と自宅へ誘ったのはやはり、大門が高校生だった頃に思っていた高嶺の花のような彼だったからだ。
「いや、あまり大したところじゃないですけど……」
大門と高屋が玄関口からキッチン、それに風呂とトイレへ繋がるドアを通り抜けると、6畳程の畳の部屋にはローテーブルだけが置かれていた。あまり物を置くのが好きじゃないのと転勤なんかにも備えてベッド等は置かず、夜には布団を敷いて、睡眠をとっているのだと大門は説明した。
「そうなんだ。警察官だとは聞いていたけど、大門君らしいね」
高屋は大門へ穏やかに笑顔を向けると、大門は気まずくなって、高屋の立っている方とは反対側にある壁へ目を逸らした。というのも、大門の性格もあるだろうが、何しろ、高屋は大門にとってどこか儚げで、気品のあり、大門には遠い存在であって、好意を持っていた同級生だったこともあるのだろう。
しかも、だ。
「『大門君』って……」
「ああ、ごめん。あまり接点のなかった人間が大門っていうのも変かなって思って……何か、あだ名のようなものがあるのかな? それか、やっぱり、同級生だし、呼び捨てとかの方が良いかな?」
「いや、そうじゃなくて!」
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