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第10話
気の利いた会話なんていうものをしたい。
そう考えていたのに、大門は思うように言葉が出なくて、少しぶっきらぼうになりながらも、言葉を続ける。
今度は少しでも優しく聞こえるように。
「俺のことを『大門君』なんて呼ぶ人は貴方が初めてですよ」
それは大門自身が男子校の出身ということや男性、男性より男性らしい女性が多い職場での勤務ということもあるとは思うが、彼の持つ武骨な気質や肉体も『大門君』よりは『大門』が合っていた。
「後輩から『さん』づけされる以外はたまに、俺の親父の同期で厳原さんっていう人がいるんですけど、その人が『カド坊』ってふざけて呼ぶくらいで、殆どが『大門』ですよ」
大門は少しだけ口角を上げると、高屋も嬉しそうに笑う。それは高校の時に見ていた儚げで、気品のある微笑みとはやや違い、楽しそうなものだった。
「だから、俺のことは好きに呼んでくれて構わないです」
その高屋の様子に先程は口元だけだった目元も細めて、大門は笑えた。しかし、それも長くは続かなかった。
「『大門君』って呼ぶのは僕だけなんだ。何だか、嬉しいな。じゃあ、大門君は僕のことを何て呼んでくれる?」
「え……」
高屋の思いがけない切り返しに大門は言葉を詰まらせて、笑っていた目元は勿論、口元までもが堅いものになる。
「あ、困らせようとした訳じゃなくて」
高校時代、大門は高屋をいつも遠くで見ていただけではあったが、こんな風に慌てて、ものを言ったりすることもあるのだろうかと大門は思った。いつも話すのを聞く時は誰にでも穏やかで、落ち着いていた彼がこんな風に慌てている。
「えーと、困ってなんかないです……。ただ、まさか高屋さんにそんな風に聞かれるとは思わなくて。あ、『高屋さん』で良いですか? 呼び方」
ぎこちなく大門も高屋の言葉へ返すと、高屋はそれに柔らかく「うん」と返した。
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