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第11話

 それから、二人は駅の南口で買い込んだ出来合いのものをローテーブルへ並べると、氷と麦茶をグラスに入れて、乾杯をした。そして、話をしながら、それらを摘んでいく。と言っても、大門は話下手な上に勤務のことについては殆ど話すことはできないので、話の殆どは高屋のもので、大門がその話を聞く形になった。 「ごめんね。アルコールは絶対ダメではないんだけど、やっぱり、心臓に負担をかけるらしくて」 「いや、俺もそんなに飲まないんで」  大門の場合は、いつ、事件や事故があり、出勤しなければならないかも知れないと思うと、大門が飲む時はコップ1杯くらいと微々たるものだった。無論、あの広部とその家族と行ったカニ料理をご馳走になった席等、例外はあるものの…… 「なら、良かったけど。それでね……」  高屋の話によると、彼は高校2年生の時に手術をしに地方の病院へ行ったらしい。  病院での手術は無事に成功し、その入院の際に知り合った美作(みまさか)という夫妻が縁で、高校を卒業した後は服飾のデザインをする学校へ通っていたという。 「育生(いくお)とはよく組んでデザインしていたんだけど、なかなか学外のコンテストとかでも評判、良かったんだよ。って、自分で評判が良かったなんて言うのもなんだけど」  高屋の話の中には度々、育生という人物が登場してきたが、彼の名前は美作育生。高屋が入院した時に出会ったという美作夫妻の1人息子だった。生まれついて病気がちで、高屋の手術が無事に終えるのを見届けると、学校を中退して、より高度の治療の受けられる病院へ転院していったという。  彼が残していたのは高屋に向けられた手紙と数冊のスケッチブックだった。 「手紙には『今度はライバルになるかも知れないけど、お互い、良い服を作ろう』『光貴と過ごせた時間は一生で1番楽しかった』って書いていてね」

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