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第2話 成り行き

ことの発端は、俺が入社してすぐ異動させられたところからだ。 え、俺の回想なんて聞きたくない? そんなこと言わないで、ちょっと聞いてくれよ。すぐ終わるから。 誰かに聞いてもらって、この酒と恋に酔った頭を整理したいんだ。 当初俺は開発要員としていわゆるIT企業に入社した。俺もそれを希望してた。 でも、開発部に所属して半年も経たないうちに、営業部に異動させられた。 織江課長がいる営業二課に、有無を言わさずぶち込まれた。 今でも良く分かってないけれど、専務が営業のテコ入れを提案したとか何とかで、今まで営業一課、営業二課の二つで切り盛りしていたんだけど、営業三課が新たに作られて、営業一課、二課から人員が三課に回された。 で、人員が足りなくなった一課、二課には、まだ所属部署に染まり切ってない新人が割り当てられた。 つまり、開発するつもりで入社した俺が、いきなり営業に回されたってわけだ。 そりゃ不安だった。俺も自分が営業に入るなんて露ほども考えたことはなかったからだ。 でもまあ行ってしまえばそれなりに何とかなるもので、あっという間に半年が経った。 何とかなったのは、別に俺が実は有能だったとかそういう理由じゃなくて、上司が細かに面倒を見てくれたからなんだけど。 面倒を見てくれた上司ってのが今目の前にいる織江(おりえ)(たまき)課長。 むちゃくちゃ仕事ができて、課長だってのにいつも暇そうに社内を放浪している。 もちろんやるべきことはやった上で、だ。 そんな人だから、新人の教育係を課長自ら買って出てくれた。 課長より下の人達は、一気に人が減ったことで増えた仕事の山を崩すのでてんてこ舞いだった。 織江課長について説明するなら、見た目遊び人の実は仕事人、だ。 背が高くて、眠たそうな深い二重瞼でいつも掴みどころのない笑みを口許に浮かべてる。 彫りが深く浅黒い肌で、遊び慣れてそうな髭を下顎に沿って生やしてて、話す内容もどこまで冗談なのか分からない。 髪も髭も明るい茶色だけどこれが地らしい。 邪魔なのか、いつもワイシャツの袖をまくり上げてアームクリップで留め、ジレを着こなして社内をふらふらしてる。 ふらふらしてるけど、同期に聞いたら、他の部署では、織江課長には気をつけろってのが常識らしい。 社内に情報屋でも潜り込ませてるのかと思うくらい、とにかく人間関係から仕事の内容まで、何でも知ってる。 いわゆる、敵に回しちゃいけない人だ。

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