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第3話 待ち合わせ

でも、やる気のある部下には基本優しい。 褒めて伸ばすのが巧いのか、気が付いたら得意先を回るくらいは一人でこなせるようになっていた。 分からないことは聞けば教えてくれる。聞かなければ当然教えてくれないけど。 そんなもんだから、俺は完全に織江課長に懐いていた。 それはもう、雛鳥の刷り込みのように。 懐いていた、が、好きになった、に変わったのはいつのことだか分からない。 気が付いたら、織江課長を好きになっていた。 上司として尊敬もしてる。でも、好きって感情の方が育ちすぎた。 今まで俺は同性を好きになったことはない。 けど、同性愛だとかゲイだとか悩む余地のないほど、織江課長が好きになっていた。 好きなんだからしょうがない。 織江課長の隣にいると破裂しそうなくらい心臓がどきどきするし、それが心地いい。 織江課長に褒められると、いっそ抱きしめてほしいくらいに嬉しくなった。 だから、今日織江課長にサシ飲みに誘われた時は一も二もなく快諾していた。 「たまには誰かと飲みたくてさ」って言ってたから、別に飲む相手は俺じゃなくても良かったんだろう。 でも俺は、サシ飲みの候補に挙げてもらえただけで、天にも舞い上がりそうなくらい嬉しかった。 定時までに仕事を終わらせて、主人を待つ犬のように、織江課長が席に戻ってくるのを待っていた。 定刻のチャイムがようやく鳴って、織江課長が帰ってきた。 「小島、店の場所送っといたから、先に行っててくれ。すまないが俺はちょっと遅れる。一杯までなら先に飲んでていいぜ。それ以上は許さねえ」 「はい!」 メールを見ると、いつのまにか課長から一通受信していた。 二駅隣のイタリアンバル。サイトを見ると、まだオープンしたてらしい。 俺は会社を出ると、まっすぐその店に向かった。 まだ店内に客は少なく、背の高いテーブルとスツールがいくつも空いていた。 適当に、人目が気にならなそうな奥のテーブルを選んでビールを一杯頼んだ。 本当は織江課長と乾杯してから飲み始めたかったけど、この緊張をほぐしたい気持ちが勝った。 配属当初、まだ右も左も分からなかった時は織江課長について客先に行って、帰りに酒の一杯もおごってもらう、なんてことも何度かあったけれど、俺が織江課長を好きだと認識してからは、二人きりで飲むのは初めてだった。そりゃ緊張もする。 運ばれてきたビールジョッキを前にして一瞬悩んだが、緊張には勝てなくて、一気に半分くらいを喉に流し込んだ。 スカッとする喉越しが、少しだけ緊張をほぐしてくれる。 携帯を弄って、少ししてから、ジョッキを呷って残りを飲み干した。 「おーおー、いい飲みっぷりだ」 突然織江課長の声がして、俺は思わずむせた。 幸い、口の中に残ってたビールはもう飲み込んでたから、惨事には至らなかったけど。 「はは、急に声かけたから驚いたか?悪い悪い」 口許をぬぐって涙目を前に向けると、悪戯っぽい笑みを浮かべた織江課長が目の前にいた。

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