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第4話 乾杯!
織江課長は手を挙げて店員を呼ぶと、ビールを二杯とフードをいくつかオーダーした。
「知り合いに、ここのピザが美味いって聞いててさ。一回来てみたかったんだ。急な誘いに乗ってくれて、ありがとよ」
「いえ、久しぶりに織江課長と飲めるので楽しみにしてました!」
俺が正直にそう言うと、織江課長は目を細めて笑った。
「お世辞でも若者にそう言ってもらえると、おじさん嬉しいね。今日はおごってやるよ」
「え、そんな、お世辞じゃないですけど、ごちそうさまです!」
世間一般ではどうだか知らないが、織江課長に限っては、素直におごられといた方が喜ばれる。
織江課長……うーん、脳内だけでも、もう課長ってつけるの止めてもいいかな。
ほら、もう定時過ぎたし。ここ会社じゃないし。織江さんって呼んでみたいし。
ってわけで織江さん……うわ、これはこれでドキドキする……織江さんいわく、「おっさんなのに独り身だから、金が腐ってる」らしい。
確かに、いつも小奇麗な格好してるし、時計とか小物類も高そうだし、独身生活を満喫している感じがする。
「お待たせしましたー」
店員さんがビールを運んできてくれた。
「はいはいはいはい待ってました!乾杯しようぜ」
織江さんが掲げたジョッキに、俺もガツンとジョッキをぶつけた。
「今日も一日お疲れさまでございました!」
思いきり杯を傾けて、黄金色の泡立つそれを喉に流し込んだ。
三分の一くらいを減らしてジョッキをテーブルを置くと、織江さんはまだ飲んでいて、仰向いて晒された意外と細い首と、上下する喉仏に思わず見惚れた。
「っくはぁーー!うめー!」
空になったジョッキをテーブルに置いて、織江さんは気持ちよさそうに両目をきゅっと瞑って下を向いた。
「さっきまでよ、開発二課で三十分くらい喋り倒してきたから喉が乾いてなぁ。ここ来る前に何か飲もうか迷って、結局飲まずに我慢してきたかいがあったぜ」
ほんの数か月だけだったけど、開発二課は一応一番最初に配属された部署だ。
異動してまだ一年も経ってないし、同期もいるし、少しは様子が気になる。
「あ、開発二課行かれてたんですか。皆さんお元気でしたか?」
「ん?ああ、小島はもともと開発二課にいたんだっけか。元気そうだったぜ。課長も相変わらずの色男で」
「それは良かった」
追加のビールをオーダーしてから、織江さんはテーブルに肘をついてちょっと笑った。
「むりやり営業にさせちまったけど、小島はやっぱり開発に戻りたいか?ああ、気を遣うなよ。飲んでるんだし、正直なところを聞かせてくれ」
「正直に言うと、このまま織江課長の下で働きたいです。せっかく沢山のことを教えてもらったので、しばらくは営業がいいです」
というか、織江さんの下から離れたくないです。ってのが本音。
織江さんが営業から異動するなら、どこにだってついて行きたい。
「おい、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。そうだな、小島も慣れない営業で頑張ってたもんな」
織江さんは手を伸ばすと、ぐりぐりと俺の頭を撫でた。
え、これ俺大丈夫?めっちゃくちゃ嬉しいんだけど、顔赤くなってないよね?
顔がにやけるのを抑えるのが辛い。どうしたって頬が緩む。幸せが過ぎるよ。
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