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第9話

 目を開けると真っ白い天井が見えた。  がばりと起き上がり、呆然と辺りを見回す。そこは見慣れた自分の部屋だった。  いつの間に着替えさせてもらったのか。服装はいつも寝るときに着ているパジャマだった。  頭が少しぼんやりしているが、抑制剤が効いているようで、熱っぽさはなかった。  カーテンが引かれていない部屋には朝というより、幾分強い日中の光が差しこんでいる。  眩しさに目を細め、俺は自分の体を改めて見下ろす。  昨日、成澤さんとの間に起こったことを思い出し、途端に顔が赤くなった。    なんてことしたんだ、俺。  「あー」と声を出し、頭を両手でかきむしる。  内心嵐が吹き荒れていたが、起こったことは仕方ないと立ち上がり、着替え始めた。  ふと、うなじに手をやる。  そういえば成澤さん、一度もここを噛もうとしなかった。  もし俺が彼の探す運命の番ならば、噛まれていたのだろうか。  あり得ない妄想に苦笑をもらし、顔を上げると、椅子に掛けられているシャツが目に入った。  見覚えのないそれは俺の体型よりも大きめのサイズで、ブランド品だった。  昨日自分の服も成澤さんの服も汚してしまったから、彼が代わりに着せてくれたのだろう。  そっとシャツに顔を寄せると、まるで深い森の中にいるようなウッディ系の香りがした。  成澤さんの匂いだ。  大きく深呼吸を一度し、顔を赤らめると、シャツを置いた。  恋する乙女か、俺は。  クローゼットを開き、適当なTシャツとパーカを着て、ジーンズを履く。  彼が自分なんかを選ぶわけがない。  だって彼が求めているのは運命の番なのだから。まあ、それこそ俺を断るための嘘かもしれないけれど。  分かっているのに俺は未練がましく、置いたシャツにそっと指を滑らせた。  階下から母親の自分を呼ぶ声が聞こえた。 「今、そっち行く」  大声で返事をし、思いを断ち切るように息を吐くと、部屋を出た。

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