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第11話
二階に上がり、ベッドに横になる。
手の中の紙切れを見つめた。
母親から渡された成澤さんの電話番号だった。
電話番号の交換すらしなかった見合いなんて失敗に決まっているのに。
ため息をついて立ち上がると、机の上のスマホが震えた。
成澤さん?!
飛びつくと、内定をもらっていた会社からだった。
よく考えれば、彼が自分のスマホの番号を知るはずがない。
俺は苦笑しながら通話ボタンを押した。
リビングに降りてきた俺を見て、母親が表情をくもらせた。
「あの抑制剤合わなかったの?顔色が悪いけど」
俺は首を振ると、四人掛けのテーブルセットの椅子に腰かけた。
向かいに母が座る。
「内定、取消だって」
「嘘でしょ?何で」
「思ったより業績が伸びなかったから、今年の採用人数を減らすって。嘘に決まってる。どうせオメガの俺より優秀なアルファやベータを採用するつもりなんだ。ちくしょう」
拳を握ると、机に叩きつけた。
「でっ、でもほら、よく考えたらこれで良かったんじゃない?瑞樹は成澤さんとお付き合いできるかもしれないし」
母の言葉に、俺は勢いよく顔を上げた。
「そんなの無理だよ。成澤さんは昨日発情した俺を見たのに、うなじを噛もうともしなかった。冷静なもんだったよ。俺は彼の運命の番でもない。家柄も釣り合わない。そんな俺を彼が選ぶわけないだろう。夢を見るのは止めてくれ」
長い息を吐くと、直ぐに後悔が押し寄せた。
「ごめん」
いくら内定を切られたからと言って、母親に声を荒げるべきじゃなかった。
母親が痛ましそうな視線を俺にむける。
母は急に立ち上がると、寝室に消えた。
すぐ戻ってきて、一枚の写真を俺の目の前に置く。
写真に写っている人物は頭は禿げ上がり、でっぷりとした50代くらいの男性で、人の良さそうな笑みを浮かべている。
「次のお見合いの相手の方よ。ベータだけど、会社を経営されてるんですって。娘さんがいるけど、高校生だから、手はかからないはず。瑞樹の写真を見せたら気に入ってくださって」
「冗談でしょ?」
俺は机に両手をついて立ち上がった。
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